二は(時友・羽丹羽)

「時友くん、知っていますか。世界って、五分前に作られたんですよ」
 カフェでアイスティーを頼んだら、羽丹羽くんはマスカルポーネティラミスシェイクなるものを啜っていた。相変わらず冒険心がある。
「すべての歴史や記憶を保っている状態で、五分前に作られたんです」
「ええ、じゃあぼくは五分より前には存在していなかったということ?」
 突然降られた話題はなんともSFちっくで、ぼくの頭ではおいつかない。アイスティーは氷がたっぷりで、口の中が一瞬で冷たくなった。食道がどこにあるかがわかっていく、ひんやりとした感覚。
「それまではどこにいたんだろう」
「いなかったんですよ。突如できたんです」
「なんだか怖いなあ」
 どうせ羽丹羽くんの、いつもの嘘だろうとたかを括ってスマホを見てみれば、なんと『世界五分前仮説』は実際に存在するはなしだった。驚きの余り、羽丹羽くんを凝視する。
「ぼくだって本当のことを言いますよ」
 心外そうな顔をされたが、いつもカスの嘘をつく羽丹羽くんがいけないと思う。いや、いけなくない。その全てのカス嘘に振り回されてしまうぼくが悪いのだ。どっしりと構えていなければ。
「それでね、時友くん。僕は、十分前に生まれたんです」
「……世界は五分前にできたのに?」
「ええ、そうです。ぼくだけ、十分前に」
 うそだあ、と言いたいけれど、どこから指摘すればいいのかわからなくなるくらい、今回は膨大な話だ。世界を巻き込んでいる。
「ぼくは、ぽつんと居ました。しばらく、ただ居るだけ、をしていました。そうすると五分後に、世界が生まれたのです」
「途方もない話」
 ぼくはその五分間を想像する。世界でたったひとり、いやその世界すら存在しない、なにもないところに、たったひとりでいた羽丹羽くん。
「さみしかった?」
「さみしかったけれど、大丈夫ですよ。五分だけだったし、五分後には、時友くんが生まれましたからね」
 なんだか嬉しくなって、えへへと笑う。マスカルポーネティラミスシェイクをぐるぐるとかきまぜる羽丹羽くんも、どこか誇らしそうだ。
 よかった、羽丹羽くんが、今はもう寂しくなくて。孤独が、たった五分のもので。そこに、永遠というものが存在せずに、無事に世界が誕生して、本当によかった。
 五分前に生まれた世界。すべての歴史や記憶を保って。おかしいな、新しく生まれた世界なら、過去の悲しい戦争なんかも、全部なかったことにしてくれればいいのに。
「神様は、なんだか複雑な世界を創りたかったようなのです。だから、綺麗一辺倒には、どうにもうまくできないそうなのです」
「込み入ったのが好きなんだ」
「マイブームが伏線回収らしくて」
「神様にマイブームとかあるんだ」
 羽丹羽くんと神様はいったいどういう関係なのだろう? そんなことを考えながら、アイスティーを飲んでいると、羽丹羽くんはおかしそうにくすくすと笑いだした。
「そういうところですよ、時友くん」
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