その他
満月、忍ぶのにふさわしくない夜の帳は、黒の布を広げたように満遍なく世界を包み込む。静けさの中、薪を集めて火を囲めば、熱さが顔に火照りを帯びさせた。
「小頭」
高坂が、私の空になった盃に酒を注いだ。盃の中に波紋が広がり、烏帽子息子の瞳が映る。忍務の時より力の抜けた眉の下がり具合に笑みが零れた。
「こんな日くらい、帰ればいいのに」
組頭はそんなことを言いながらも、どこか嬉しそうだ。共に酒を交わせる瞬間は少ない。辛めの酒を口の中で転がしながら、いやいや、と手のひらを顔の前で振る。
「威厳というものがありますから」
「しかし、奥様もお待ちになっているはずです」
高坂の頬はほんのりと赤く染まっている。こんなに気を許している姿を見るのはどこか嬉しくあった。組頭は「全く」と溜息を吐きながら酒を煽る。
「一番下の子が三つになったのだろう。お祝いしてあげればいい」
「次の休みには帰りますから」
「家族がいるのなら、大切にすべきだよ」
赤く咲いた炎が、我々の身体の芯を燃やしていく。私はじんわりとあたたまる胸をこころから喜んでいた。
「私には、二人も家族のようなものだ」
火花が弾ける音が、辺りの静寂を際立たせた。私は家族というものについて、二人に説く必要はないと思っている。父を亡くした者。父から離れた者。二人の影を、六人の子を持つ父としての私が見つめる。
「今夜は、お前たちと飲みたかったんだよ」
組頭と高坂は目を合わせ、それから少しだけ頷いた。高坂がまた私に酒を注ごうとするのを制し、今夜は自由に飲もう、と手酌に移す。
いい夜だ、と思った。夜に生きる身として、夜を尊べることは、どこか僥倖だった。それだけ紡いできた命があるということだ。
「おめでとう」
「おめでとうございます」
「ありがとう。長生きしなければな」
身体が熱くなっていく。炎のせいか、酒のせいか、二人の笑みのせいか。どれだっていい。星々の輝きを目で追えるこんな夜には、笑い声をあげたっていい。
家族が笑っていれば、それでいい。
「小頭」
高坂が、私の空になった盃に酒を注いだ。盃の中に波紋が広がり、烏帽子息子の瞳が映る。忍務の時より力の抜けた眉の下がり具合に笑みが零れた。
「こんな日くらい、帰ればいいのに」
組頭はそんなことを言いながらも、どこか嬉しそうだ。共に酒を交わせる瞬間は少ない。辛めの酒を口の中で転がしながら、いやいや、と手のひらを顔の前で振る。
「威厳というものがありますから」
「しかし、奥様もお待ちになっているはずです」
高坂の頬はほんのりと赤く染まっている。こんなに気を許している姿を見るのはどこか嬉しくあった。組頭は「全く」と溜息を吐きながら酒を煽る。
「一番下の子が三つになったのだろう。お祝いしてあげればいい」
「次の休みには帰りますから」
「家族がいるのなら、大切にすべきだよ」
赤く咲いた炎が、我々の身体の芯を燃やしていく。私はじんわりとあたたまる胸をこころから喜んでいた。
「私には、二人も家族のようなものだ」
火花が弾ける音が、辺りの静寂を際立たせた。私は家族というものについて、二人に説く必要はないと思っている。父を亡くした者。父から離れた者。二人の影を、六人の子を持つ父としての私が見つめる。
「今夜は、お前たちと飲みたかったんだよ」
組頭と高坂は目を合わせ、それから少しだけ頷いた。高坂がまた私に酒を注ごうとするのを制し、今夜は自由に飲もう、と手酌に移す。
いい夜だ、と思った。夜に生きる身として、夜を尊べることは、どこか僥倖だった。それだけ紡いできた命があるということだ。
「おめでとう」
「おめでとうございます」
「ありがとう。長生きしなければな」
身体が熱くなっていく。炎のせいか、酒のせいか、二人の笑みのせいか。どれだっていい。星々の輝きを目で追えるこんな夜には、笑い声をあげたっていい。
家族が笑っていれば、それでいい。