二は(時友・羽丹羽)

 ……あれ?
 混濁、している。意識が。視界がぼやけて、頭が痛い……
 ここはどこ、あたしはだれ、なんていう、ありきたりなフレーズも浮かばなかった。立たなきゃ、とだけ強く思い、ふらふらと上半身を起こす。
「お姉さん、どうしたんですか」
「具合、わるいですか」
 子供の声がした。焦点を無理やり合わせながら振り返ると、小さな男の子が二人、心配そうに私を見ていた。
 紫に近い青い色の服に身を包んでいたが、見たことのない形の服だった。ツナギともちがう、着物みたいな、でも着物ともちがう――
「お水です。飲めますか?」
 差し出されたのは、水筒でもペットボトルでもなく、竹筒だった。こんなものに入っている液体を飲めと? さすがに不信感が募って、手を伸ばせなかった。
「やめよう、お姉さん怖がってる」
「そうですね、すみません」
 ああ、しょんぼりしないで。君たちが悪いのではないのだから。
 やっと頭がはっきりしてきたので、改めて周りを見渡した。森? 山の中? 私はいつのまに、こんなところに来たのだろう。
 でも、頭が言ってる。「帰らなくちゃ」。
「お姉さん、どこにいくの?」
「一緒に遊びませんか」
 ううん、ごめんね。なんだか急がなきゃいけない気がして。
 ほら、鴉が鳴いてる。燃えるような夕焼けが道を照らしているうちに、なんとか街に出なければ。
 獣道を辿って歩いていると、男の子たちは私の後ろをついてきた。声の高い、喉の細い、無邪気な歌声。
「ちいさいあーき ちいさいあーき みーつけた」
 そうね、木々が赤いね。そのうち枯れてしまうね。なんだかそれが恐ろしくて、私は歩く速度をはやめた。ここにいてはいけないのだ。
 心細さから、本当は振り返りたかった。振り返りたい、振り返って男の子たちの手をとりたい、そんな欲求が膨らむ不安と比例して大きくなっていく。
「あ」
 獣道の突き当りに、トンネルのような、大穴を見つけた。手前に小さな地蔵が佇んでいる。苔まみれの、お世辞にも綺麗とは言えないそれに、私は無言で手を合わせた。
「お姉さん、いっちゃうの?」
「もっと遊びましょうよ」
 私は頭を振って、さようならを言う。ありがとう、ここまで連れてきてくれて。
 またね、とは言わなかった。たぶんもう会えないとわかっていたから。私は穴の中を進む。暗がりの中に光が差し込む――

「いっちゃったね」
「ひっかかりませんでしたね」
「遊びたかったね」
「残念ですけど」
「水を飲んでたら、もう帰れなかったんだけどねえ」
「お地蔵さんを無視したら、帰れなかったんですけどねえ」
「さみしいねえ」
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