二は(時友・羽丹羽)

 秋風が世界を覆う。小松田さんの掃き掃除が大変な季節だ。
 枯葉の焦げたような匂いを踏みしめながら、時友くんと裏山を目指していた。ピクニックにはもってこいの気候だった。道に実っていたアケビをおやつにしながら、真っ赤に染まる木々を見上げる。
 時友くんは無邪気な顔で、「綺麗だねえ」と笑う。彼は四季折々のすべてを「綺麗だねえ」と享受する。ぼくはそれを見るのが好きだ。
 花々、鳥の囀り、木の実、水面の動き、匂い、風の温度なんかのすべてに、季節が巡っていくのを感じる。そして、それを一緒に確認し合える友人がいるというのは、とても尊いものだ。ぼくはご機嫌に足を踏み鳴らした。
 かさ。足元に、大きな木の葉が落ちている。真っ赤なそれを拾い太陽に透かしてみれば、目の先には同じように真っ赤な葉がたくさん揺れていた。
「見て下さい、時友くん」
 時友くんが、ぼくの目線を辿る。わあ、と漏れた声は嬉しそうで、ぼくの胸はときめきに満ちていった。
「桜って、こんなに紅くなるんですね」
 見上げたその木は、桜の大木だった。春に、この木の下でお弁当を食べたから、間違いない。あんなに可憐な花が盛っていた木が、秋にも色づくだなんて知らなかった。思わず見とれていると、時友くんがぼくに習って、足元からひとひら、赤い葉を拾った。
「なんだか、燃えてるみたいだねえ」
 この木が炎なら、とても暖かな冬になるだろう。ぼくたちはそう言って、真っ赤な木の葉を拾い集めた。秋の訪れ、冬の準備。それをこんなにあたたかな気持ちで迎えられるのは、きっと隣に、時友くんがいるからに違いない。
 ぽかぽかだ、と思いながら、ぼくは赤い葉を一枚持ち帰って、本の間に挟んだ。冬にはぼろぼろに崩れてしまったけれど、思い出がひとつ増えたことは、色褪せない。

 ――色褪せればよかったかもしれない。
 毒を撒かれ、仲間が呼吸困難になるなか、ぼくは火を放つ選択しかとれなかった。尊い思い出なんか振り返る間もなく、自分で調合した宝禄火矢を放った。
 燃える。燃え盛る。
 桜の花が、真っ赤に燃える。
 煙が夜空の星を掻き消していく。
 ――綺麗、だったかもしれない。
 春の夜空に大きな炎。踊るように広がる炎。叫ぶように散っていく火花。
 大好きだった君の横顔を思い出す。
 この桜の最後を知ったら、きっと悲しむだろう。それでも、「君が無事でよかった」と言ってくれるという確信があった。
 だからだろうか。よけいに桜が美しく見える。
 闇夜を包んでいく灯りが。希望とも絶望ともとれる灯りが。
 ――綺麗、だったかもしれない。
 ねえ、時友くん。あの桜を燃やした張本人であるぼくに、「思い出ならまた一緒に作ればいい」と、言ってくれますか。
 もう、あの真っ赤な栞は、作れないけれど。
4/26ページ
スキ