二は(時友・羽丹羽)
蝉が鳴いていた。雨の日々が過ぎ去ると、あっという間に夏は訪れる。
毎日暑いねえ、と羽丹羽くんに話しかけると、あのね、時友くん、とひそひそ声が返ってきた。
「なあに?」
「ぼくの、ひみつを見てもらえませんか?」
「ひみつ?」
今夜、こっそりと教えてくれることになった「ひみつ」。ぼくはそれを誰にも言わないように気を付けて一日をすごした。口がしびれてしまうんじゃないかと思ったけれど、だれにも訝しがられなかったから、きっと大丈夫。
夜になった。い組のみんなはお風呂に行っている。羽丹羽くんは、こっちです、こっち、とぼくをひそひそ呼び寄せた。右手で手招きして、左手でなにかを隠している。
「ねえ羽丹羽くん。ひみつって、左手に持っているもの?」
「そうです。こっちの影に、さあ」
羽丹羽くんの隣にしゃがみこむと、そっと手のひらをとられ、何かを手渡された。細長い、紙を丸めたようななにか。
「ぼくが調合したんです」
火打石を、かん、かんと打ち、細長いなにかの先端に火花を近付ける。ぽっと火が灯ったそれは、蛍のおしりのようにきらきらと輝きだした。
「わあ、すごい……! ちいさな花火」
手の中でぱちぱちと弾ける花が、暗闇のなかで頬を照らしてあたたかい。思わず見入っていると、羽丹羽くんがうふふと小さく笑った。
「はじめての調合。時友くんに見せられて、嬉しい」
「羽丹羽くんのはじめての調合が、宝禄火矢のように爆発しない、平和な花火で、嬉しい」
ぱちぱち。小さな火花が辺りに散っていくのを、ふたりでじっと見ていた。やがてフッと消え、静寂が戻ってきても、ぼくらの頬は温かいままだった。
「いつか、おおきなおおきな花火を打ちあげるのかな」
「まさか。目指すは立花先輩みたいな、自由に扱える宝禄火矢ですよ」
ふたりでくすくす笑いながら長屋に帰ると、お風呂から帰って来たい組のみんなと鉢合わせる。なにやってたんだよ、お前らも入りなよ。そう言われたのに対して、はあいとにこにこ返事したのを、い組のみんなは不思議そうにみつめていた。
羽丹羽くんのひみつは、夏のはじまりの夜にふさわしい、きらきらと輝いたものだった。平和な平和な光が弾けて消えていくのはとても綺麗だったので、ぼくはその晩、たくさんの輝く花に囲まれる夢を見たのだった。
毎日暑いねえ、と羽丹羽くんに話しかけると、あのね、時友くん、とひそひそ声が返ってきた。
「なあに?」
「ぼくの、ひみつを見てもらえませんか?」
「ひみつ?」
今夜、こっそりと教えてくれることになった「ひみつ」。ぼくはそれを誰にも言わないように気を付けて一日をすごした。口がしびれてしまうんじゃないかと思ったけれど、だれにも訝しがられなかったから、きっと大丈夫。
夜になった。い組のみんなはお風呂に行っている。羽丹羽くんは、こっちです、こっち、とぼくをひそひそ呼び寄せた。右手で手招きして、左手でなにかを隠している。
「ねえ羽丹羽くん。ひみつって、左手に持っているもの?」
「そうです。こっちの影に、さあ」
羽丹羽くんの隣にしゃがみこむと、そっと手のひらをとられ、何かを手渡された。細長い、紙を丸めたようななにか。
「ぼくが調合したんです」
火打石を、かん、かんと打ち、細長いなにかの先端に火花を近付ける。ぽっと火が灯ったそれは、蛍のおしりのようにきらきらと輝きだした。
「わあ、すごい……! ちいさな花火」
手の中でぱちぱちと弾ける花が、暗闇のなかで頬を照らしてあたたかい。思わず見入っていると、羽丹羽くんがうふふと小さく笑った。
「はじめての調合。時友くんに見せられて、嬉しい」
「羽丹羽くんのはじめての調合が、宝禄火矢のように爆発しない、平和な花火で、嬉しい」
ぱちぱち。小さな火花が辺りに散っていくのを、ふたりでじっと見ていた。やがてフッと消え、静寂が戻ってきても、ぼくらの頬は温かいままだった。
「いつか、おおきなおおきな花火を打ちあげるのかな」
「まさか。目指すは立花先輩みたいな、自由に扱える宝禄火矢ですよ」
ふたりでくすくす笑いながら長屋に帰ると、お風呂から帰って来たい組のみんなと鉢合わせる。なにやってたんだよ、お前らも入りなよ。そう言われたのに対して、はあいとにこにこ返事したのを、い組のみんなは不思議そうにみつめていた。
羽丹羽くんのひみつは、夏のはじまりの夜にふさわしい、きらきらと輝いたものだった。平和な平和な光が弾けて消えていくのはとても綺麗だったので、ぼくはその晩、たくさんの輝く花に囲まれる夢を見たのだった。