その他

 昨日までの雨が嘘のように、カラリと晴れた朝だった。
 まだ眠気の残る目や頬を擦り、井戸に水を汲みに行く。
 長屋のあちこちから、おはようという声が聞こえてきた。おはよう、今日はいい天気だね。おはよう、気持ちがいい朝だね。
 健やかに育っていく人々の声を聞くと、たまらなくしあわせになる。雨の日に気分が落ち込んでしまっても、それはよくある不運だと励ましてくれる人々の存在に救われている。
 水はさっぱりと顔を潤し、僕は爽快な朝を迎え入れた。大きく伸びをして太陽を浴びる。
 不運な体質だけれど、それでも幸運はこの手の中にある、と、最近思うようになった。悲しいことがあるたび、みんなの笑顔が脳内をかけめぐる。
 僕の周りに咲くものたち。頼ってくれる、慕ってくれる、隣に並んでくれる仲間たち。
 ――なにか、夢を見た気がする。
 僕たちが終わる、今際の瞬間の夢を。
 僕たちは、いつか終わる。顔も名前も、墓もなく終わる。だからどうか、みんなの行く末が安らかでありますように、と願ってやまない。
 祈りが届くなら、どうか。
「伊作!」
 同室の声が聞こえる。朝の鍛練を終えたのだろう。僕は手を振って答える。
 彼はどうだろう、僕の祈りを聞いたら笑うだろうか。いつも僕の不運を笑い飛ばしてくれる彼だから、どうせなら笑ってもらいたいのだけれど。
 もしかしたら、一緒に祈ってくれるかもしれない。みんなの命の火が、どうか長く灯りますようにと。
「おはよう」
 おはようの声が聞けて嬉しいよ。もっとその声を聞いていたいよ。
 みんなのおはようを、毎日、ずっと。全ての人を照らす様な、澄み渡り、世界を救うような声を。
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