その他

 夢を見る度に、自分の足で歩いて行かねばならない現実を思い出し、目が覚める。
 その甘やかな虚構にため息が出る。都合のいい、やわらかな夢たち。
 池で寝ると、魚になった夢ばかり見るのがいけない。自分の下半身が鱗で覆われ、俺はえらで呼吸をする。
 いつも、泡を水面に吐くところで目が覚める。その夢の続きは、残酷なまでに美しいことだけがわかる。一か、十か、百か、きっちりと分け隔てるのが当たり前の陸の上と違って、水の中はなんとたおやかなことだろう。
 まぶたを開ければ雨だった。これのせいか、と独り言ちる。水は足元だけじゃなく、頭上にも存在する。池から上がって、風呂に向かう。
 先に風呂に入っていた同級生たちとすれ違う。伊作には心配され、仙蔵にはやれやれと頭を振られ、留三郎にはからかわれ。小平太と長次に、風呂でゆっくりあたたまるといい、と言ってもらい、俺は笑顔を向ける。作った笑顔だ。俺が作り笑いをしていることも、彼らにはお見通しだ。
 風呂に浸かりながら、この先の人生を考えた。いつ死ぬともわからない未来を目指していることが、誇りでもあり、ばからしくもなり。
 何故なら、今が楽しいからだ。
 級友たちと切磋琢磨しあい、後輩たちの面倒を見て、この輝かしい学園生活。目も耳も賑やかな日々、いずれこれが血の匂いに染まるのだ。
 俺は何を目指しているのだろう?
 一人で生きていくことを思った。独りで生きていくのだ。
 自分の足で歩いて行かねばならない。
 ひとつだけわかることは、今目の前にいる人々のことを、愛してやまないということだけだった。
 愛とはなにか。甘やかな夢。賑やかな日常。水面の上。泡となって消えていく物語。
 どこか遠くの城に勤めたい。級友たちと敵対したくない。そんななまっちろい考えも捨てたいが、どんな自分も自分だ。
 愛してやまないのだ。
 次に、はじめまして、と唱える相手は誰だろうか。一から築く相手に、今の俺はどう映るだろうか。
 しあわせそうだと思われたら、せいぜい生きてきた意味があるかもしれない。湯舟に口を付けて泡を吐いた。
 身体中の傷痕が潤っていく感覚がした。
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