その他

 食満先輩に身体づくりのコツを教わったら、とにかく筋トレをバランスよくやれと言われたので、今日は脚をいじめる。
 スクワット百回! を、三セット! 額に汗を滲ませながら、暇なので適当にラジオを流す。何故だか落語がはじまったので、どんなものかと耳を傾ける。
「隣の猫の手が届かない高いとこへ、金魚を上げてもらいたいんだよ」
「ここらで一番高い風呂屋の煙突の上はどうでしょう」
「そんな高いとこに上げたら金魚見えないだろ」
「双眼鏡でのぞけばどうです」
 笑ってしまった。笑ってしまったせいで、足が笑う。がくがくと笑う。これはしんどい。笑いを耐えるというのは全身運動になるのかもしれない。
 落語に感情を振り回されながら、スクワットを終えた。想像以上に汗が垂れ、足元のマットに水たまりが出来ていた。タオルで拭くのも億劫なくらい疲れた。
 この惨状を伝えなければならないと思い、食満先輩に電話をした。先輩は二コールで出た。暇なんだろうか。人のことを言えた義理ではない。
「守一郎、どうした」
「先輩、猫と金魚って知ってますか?」
「はあ?」
 俺はそのままヘロヘロの落語を披露した。食満先輩はひとしきり笑った後、「お前、筋肉をつけたいんじゃなかったのか? 落語家を目指すのか?」と冷静に突っ込んだ。俺は我に返る。
 足元の水たまりを見る。金魚が泳ぐには小さすぎた。
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