その他
仙蔵の大爆笑が聞こえる。
涼やかな見た目とは裏腹に、アイツの感情表現は豪快だ。怒りなど特に酷く、ところ構わず宝烙火矢をブチこんでくるから、うかつに怒らせてはいけない。俺はぼりぼりと腹をかきながら、仙蔵の大声とは反対方向に寝返りをうった。
「ひ、ひ、ひい」
「どうしたんだ、仙……ぶわっははは!」
「何事だ、仙……うわあ!?」
小平太と伊作の声が廊下から飛んでくる。賑やかなやつらだ、まだ日が昇ったばかりだというのに。せっかく鍛錬から疲れて帰ってきてひと眠りしようとしたのに、これじゃあちっとも寝られやしない。
「貴様ら、人の睡眠を……」
堪忍袋の緒が切れて、俺は上半身を起こした。見ると、床をバンバンと叩きながら泣き笑う仙蔵、仰け反って大笑いする小平太、あんぐりと口をあけ固まっている伊作。三人の視線は、どうやら俺に注がれている。
「何事だ」
「お、おまえ、ひい」
仙蔵が顔をぐしゃぐしゃに歪ませながら俺の腹の辺りを指さした。こいつが愉快がっている時はなにか厄介なことに巻き込まれるに決まっている。どんな悪戯をしたのかとやきもきしながら布団をどけると、そこにはとんでもない光景が広がっていた。
俺の股間が、光を放っていたのである。
「お前、な、なにをした、どうして息子を光らせているのだ、そんなに注目されたいか」
仙蔵はひときわ大きな声で爆笑したかと思うと、床に倒れ込んでしまった。そんな事言われても、こちとら身に覚えが全くない。むしろどうしてこうなっているのか、誰か説明してほしい。小平太は笑いすぎて庭を転げまわっているし、俺は自分の股間が眩しくて碌に前が見えないしで、もう散々だ。
「なんだよ、こんな朝早くから……ぶっ」
もう終いだ。留の野郎が部屋の前で、小平太同様ひっくり返って大笑いしている。彼に見られてしまっては、もはや隠しておけないだろう。学園中に俺の股間の噂が流れるに違いない。文次郎の股間、今、神々しく光ってるぞ、と。
遅れて来た長次ですら「ぶほっ」と笑って肩を震わせていた。風呂で一緒になる仲ですらあるのに、いやだからこそか、あらぬ想像をさせてしまったことだけは詫びたい。
「あの、文次郎。一応、見させてくれるかな。なんの知識もないけど、なんか、とりあえず診ることしか僕には出来なくて」
「あ、ああ、そうだな」
笑いをこらえながら、伊作が俺の股間に近付いた。傷だらけの指先が俺の又坐の布を捲る。とたん、今まで遮られていた分の光が褌から零れだした。ビカビカと顔を照らされた伊作は「ウワァーッ」とひっくり返ってしまい、俺はただ褌姿を晒しただけになってしまった。
「伊作ーッ! 大丈夫かーッ」
「すまない留三郎ぉ~」
いつものやりとりの横で冷静さを取り戻した仙蔵が、乱れた髪を直しながら「それにしても」と口を開いた。突然落ち着くな、お前は。
「なぜ光りだしたのか。この光はいつ止むのか。ずっと光っていたら、もう忍者は出来んぞ」
「確かに」
長次が静かにうなずく。俺はさっきの鍛錬までは普通でいたこと、布団に入った途端に仙蔵が笑いだしたことを話した。そうだ、俺は寝る気だったのだ。
「池で寝ていたのだが、すっかり身体が冷えてしまったので、さて出るかという時に、何かが股間に噛みついた気がする」
「あの池、スッポンでもいたか?」
「生物委員から逃げ出している動物だとしたら、毒がある可能性がある」
「だからと言って突如光るか?」
気が付くと、笑いを落ち着けた六年生全員で俺の股間を取り囲んでいた。ビカビカとそれぞれの顔を照らすその様は、まるで焚火のようだった。特段暖かくもないが。
「とりあえず、新野先生に報告を」
「お前は予備のふんどしを上から巻け。眩しくてかなわん」
果たしてどうなる、俺の股間。俺はしょんぼりとうなだれるが、うなだれた先に顔中をびかびかと照らされてしまったので、俯くことも許されなかった。もう胸を張って股間を光らせることしか出来ない。
夜には役に立つだろうか。潜入ではなく、捜索とかで。
涼やかな見た目とは裏腹に、アイツの感情表現は豪快だ。怒りなど特に酷く、ところ構わず宝烙火矢をブチこんでくるから、うかつに怒らせてはいけない。俺はぼりぼりと腹をかきながら、仙蔵の大声とは反対方向に寝返りをうった。
「ひ、ひ、ひい」
「どうしたんだ、仙……ぶわっははは!」
「何事だ、仙……うわあ!?」
小平太と伊作の声が廊下から飛んでくる。賑やかなやつらだ、まだ日が昇ったばかりだというのに。せっかく鍛錬から疲れて帰ってきてひと眠りしようとしたのに、これじゃあちっとも寝られやしない。
「貴様ら、人の睡眠を……」
堪忍袋の緒が切れて、俺は上半身を起こした。見ると、床をバンバンと叩きながら泣き笑う仙蔵、仰け反って大笑いする小平太、あんぐりと口をあけ固まっている伊作。三人の視線は、どうやら俺に注がれている。
「何事だ」
「お、おまえ、ひい」
仙蔵が顔をぐしゃぐしゃに歪ませながら俺の腹の辺りを指さした。こいつが愉快がっている時はなにか厄介なことに巻き込まれるに決まっている。どんな悪戯をしたのかとやきもきしながら布団をどけると、そこにはとんでもない光景が広がっていた。
俺の股間が、光を放っていたのである。
「お前、な、なにをした、どうして息子を光らせているのだ、そんなに注目されたいか」
仙蔵はひときわ大きな声で爆笑したかと思うと、床に倒れ込んでしまった。そんな事言われても、こちとら身に覚えが全くない。むしろどうしてこうなっているのか、誰か説明してほしい。小平太は笑いすぎて庭を転げまわっているし、俺は自分の股間が眩しくて碌に前が見えないしで、もう散々だ。
「なんだよ、こんな朝早くから……ぶっ」
もう終いだ。留の野郎が部屋の前で、小平太同様ひっくり返って大笑いしている。彼に見られてしまっては、もはや隠しておけないだろう。学園中に俺の股間の噂が流れるに違いない。文次郎の股間、今、神々しく光ってるぞ、と。
遅れて来た長次ですら「ぶほっ」と笑って肩を震わせていた。風呂で一緒になる仲ですらあるのに、いやだからこそか、あらぬ想像をさせてしまったことだけは詫びたい。
「あの、文次郎。一応、見させてくれるかな。なんの知識もないけど、なんか、とりあえず診ることしか僕には出来なくて」
「あ、ああ、そうだな」
笑いをこらえながら、伊作が俺の股間に近付いた。傷だらけの指先が俺の又坐の布を捲る。とたん、今まで遮られていた分の光が褌から零れだした。ビカビカと顔を照らされた伊作は「ウワァーッ」とひっくり返ってしまい、俺はただ褌姿を晒しただけになってしまった。
「伊作ーッ! 大丈夫かーッ」
「すまない留三郎ぉ~」
いつものやりとりの横で冷静さを取り戻した仙蔵が、乱れた髪を直しながら「それにしても」と口を開いた。突然落ち着くな、お前は。
「なぜ光りだしたのか。この光はいつ止むのか。ずっと光っていたら、もう忍者は出来んぞ」
「確かに」
長次が静かにうなずく。俺はさっきの鍛錬までは普通でいたこと、布団に入った途端に仙蔵が笑いだしたことを話した。そうだ、俺は寝る気だったのだ。
「池で寝ていたのだが、すっかり身体が冷えてしまったので、さて出るかという時に、何かが股間に噛みついた気がする」
「あの池、スッポンでもいたか?」
「生物委員から逃げ出している動物だとしたら、毒がある可能性がある」
「だからと言って突如光るか?」
気が付くと、笑いを落ち着けた六年生全員で俺の股間を取り囲んでいた。ビカビカとそれぞれの顔を照らすその様は、まるで焚火のようだった。特段暖かくもないが。
「とりあえず、新野先生に報告を」
「お前は予備のふんどしを上から巻け。眩しくてかなわん」
果たしてどうなる、俺の股間。俺はしょんぼりとうなだれるが、うなだれた先に顔中をびかびかと照らされてしまったので、俯くことも許されなかった。もう胸を張って股間を光らせることしか出来ない。
夜には役に立つだろうか。潜入ではなく、捜索とかで。