二は(時友・羽丹羽)
二時間目と三時間目の間の休み時間が始まって、まっさきに僕の席に来てくれる羽丹羽くん。僕は窮屈になったうわばきのかかとをつぶしながら、今日は何して遊ぼうかと考える。
羽丹羽くんに「手を出してください」と言われたので、手品でもするのかとワクワクしながら両手を出した。羽丹羽くんは何かを大事そうに取り出して、僕の手の上にそっと乗せる。
貝殻だった。白くてぎざぎざしている、まるっこい、小さな貝殻。お味噌汁に入っているあさりと随分ちがう。
「わあ、どうしたの、これ」
「昨日、家族と出かけた時に、海に寄り道したんです。寒いから波打ち際までしか行けなかったんですけれど、たくさん貝殻があって」
「綺麗なんだなあ」
なんだか波の音が聞こえるようだ。こんなに不思議な形をしているのに、自然の産物だということが不思議だ。僕はこれを、ずっとずっと大切に持っておくにはどうしたらいいのかと思考を巡らせた。
「ねえ、羽丹羽くん。タイムカプセルを作らない?」
「タイムカプセルですか?」
「そう、二人の宝物を入れるの。十年後に一緒に掘り起こそうよ。ぼくはこの貝殻を入れるよ」
「素敵ですね……!」
他には何を入れようか。手紙、写真、抜けた歯、五百円玉。ぼくらは色々相談して、交換日記を入れることにした。国語のノートを破って、思い出せる限りの日記を書いた。羽丹羽くんが転校してきたこと、森林公園で一緒におにぎりを食べたこと、夜に電話をしたこと。そのどれもが楽しくて、最高の思い出になっていること。
学校が終わって、一度家に帰ってから、ぼくらは公園に集合した。羽丹羽くんが家にあったクッキー缶を、ぼくはお父さんのシャベルを持ってきていた。準備万端だ。
公園のベンチの影のあたりに、深い深い穴を掘る。途中、土がとてもかたくなったので、ぼくらは交互に休憩を取りながら、協力して穴を掘り進めた。ぽっかりと開いた穴の中に、交換日記と貝殻の入ったクッキー缶を仕舞った。缶に描かれている犬に、ばいばい、またね、と挨拶をした。満腹になった穴に土を被せながら、十年後に思いを馳せる。
十年後、僕らは二十一歳。立派な大人だ! 何をしている頃だろう、働いてるかな、大学生かな。お酒は飲むのだろうか、タバコは吸いたくないなあ。きっと背はぐんと伸びていて、足だってもっと大きくなっている。
「羽丹羽くんは、どんな大人になりたい?」
「そうだなあ。素敵な人になりたいです」
「たとえば、どんな?」
「たとえば、ずっと時友くんとお友達でいられるような」
穴をすっかり埋め終えたぼくらは、額に滲んだ汗を拭った。顔に土がついてしまったことをお互いに指摘して笑い合う。
「ぼくらはずっと友達だよお」
「ずっとですよ。ずーっと、ですよ」
羽丹羽くんは僕の手をとり、小指を立たせると、指切りをはじめた。ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。
「大胆だなあ」
「時友くん、ぼくのこと、忘れないでくださいね」
「だから、ずっと友達だってば」
ぼくは、永遠とか絶対といかいう、気の遠くなるようなことはまるで分からないけれど、ぼくと羽丹羽くんの友情は、永遠だし絶対だと思っている。だってこんなに、一緒にいて楽しいのだもの。
水筒に入れてきたお茶を飲みながら、埋めてしまった貝殻のことを思った。貝殻も、もしかしたら、海で誰かに拾われるのをずっと待っていたのかもしれない。また地面に埋めてしまったけれど、きっと十年なんてあっという間だ。地球は四十六億歳なのだ。
「ねえ羽丹羽くん。いつか離れ離れになっても、十年後の今日、きっとここに来ようね」
「ええ。約束ですよ」
窮屈なうわばきも、汚れた額も、重たい水筒も、手に馴染まないシャベルも、明日になったら忘れてしまうかもしれないけれど、この日の約束だけはずっと覚えていようと思った。羽丹羽くんとの未来の思い出。光って見えるそれも、宝箱にしまっておけたらいいのに。
近くを白猫が通りかかった。ぼくらは「ねこー」と追いかける。猫は無言で車の下に逃げてしまった。
大人になったら運転免許を取ろうと思う。車の下の猫を確認できるから。羽丹羽くんとドライブできるから。猫を追いかけるのをやめたぼくらは、合唱の課題曲を口ずさみながら羽丹羽くんの家へ向かった。おいしいクッキーが出て来るに違いなかった。
羽丹羽くんに「手を出してください」と言われたので、手品でもするのかとワクワクしながら両手を出した。羽丹羽くんは何かを大事そうに取り出して、僕の手の上にそっと乗せる。
貝殻だった。白くてぎざぎざしている、まるっこい、小さな貝殻。お味噌汁に入っているあさりと随分ちがう。
「わあ、どうしたの、これ」
「昨日、家族と出かけた時に、海に寄り道したんです。寒いから波打ち際までしか行けなかったんですけれど、たくさん貝殻があって」
「綺麗なんだなあ」
なんだか波の音が聞こえるようだ。こんなに不思議な形をしているのに、自然の産物だということが不思議だ。僕はこれを、ずっとずっと大切に持っておくにはどうしたらいいのかと思考を巡らせた。
「ねえ、羽丹羽くん。タイムカプセルを作らない?」
「タイムカプセルですか?」
「そう、二人の宝物を入れるの。十年後に一緒に掘り起こそうよ。ぼくはこの貝殻を入れるよ」
「素敵ですね……!」
他には何を入れようか。手紙、写真、抜けた歯、五百円玉。ぼくらは色々相談して、交換日記を入れることにした。国語のノートを破って、思い出せる限りの日記を書いた。羽丹羽くんが転校してきたこと、森林公園で一緒におにぎりを食べたこと、夜に電話をしたこと。そのどれもが楽しくて、最高の思い出になっていること。
学校が終わって、一度家に帰ってから、ぼくらは公園に集合した。羽丹羽くんが家にあったクッキー缶を、ぼくはお父さんのシャベルを持ってきていた。準備万端だ。
公園のベンチの影のあたりに、深い深い穴を掘る。途中、土がとてもかたくなったので、ぼくらは交互に休憩を取りながら、協力して穴を掘り進めた。ぽっかりと開いた穴の中に、交換日記と貝殻の入ったクッキー缶を仕舞った。缶に描かれている犬に、ばいばい、またね、と挨拶をした。満腹になった穴に土を被せながら、十年後に思いを馳せる。
十年後、僕らは二十一歳。立派な大人だ! 何をしている頃だろう、働いてるかな、大学生かな。お酒は飲むのだろうか、タバコは吸いたくないなあ。きっと背はぐんと伸びていて、足だってもっと大きくなっている。
「羽丹羽くんは、どんな大人になりたい?」
「そうだなあ。素敵な人になりたいです」
「たとえば、どんな?」
「たとえば、ずっと時友くんとお友達でいられるような」
穴をすっかり埋め終えたぼくらは、額に滲んだ汗を拭った。顔に土がついてしまったことをお互いに指摘して笑い合う。
「ぼくらはずっと友達だよお」
「ずっとですよ。ずーっと、ですよ」
羽丹羽くんは僕の手をとり、小指を立たせると、指切りをはじめた。ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。
「大胆だなあ」
「時友くん、ぼくのこと、忘れないでくださいね」
「だから、ずっと友達だってば」
ぼくは、永遠とか絶対といかいう、気の遠くなるようなことはまるで分からないけれど、ぼくと羽丹羽くんの友情は、永遠だし絶対だと思っている。だってこんなに、一緒にいて楽しいのだもの。
水筒に入れてきたお茶を飲みながら、埋めてしまった貝殻のことを思った。貝殻も、もしかしたら、海で誰かに拾われるのをずっと待っていたのかもしれない。また地面に埋めてしまったけれど、きっと十年なんてあっという間だ。地球は四十六億歳なのだ。
「ねえ羽丹羽くん。いつか離れ離れになっても、十年後の今日、きっとここに来ようね」
「ええ。約束ですよ」
窮屈なうわばきも、汚れた額も、重たい水筒も、手に馴染まないシャベルも、明日になったら忘れてしまうかもしれないけれど、この日の約束だけはずっと覚えていようと思った。羽丹羽くんとの未来の思い出。光って見えるそれも、宝箱にしまっておけたらいいのに。
近くを白猫が通りかかった。ぼくらは「ねこー」と追いかける。猫は無言で車の下に逃げてしまった。
大人になったら運転免許を取ろうと思う。車の下の猫を確認できるから。羽丹羽くんとドライブできるから。猫を追いかけるのをやめたぼくらは、合唱の課題曲を口ずさみながら羽丹羽くんの家へ向かった。おいしいクッキーが出て来るに違いなかった。