二は(時友・羽丹羽)

 朝起きると、時友くんが、横にいませんでした。厠かなと思って待っていたのですが、なかなか戻ってきません。ぼくは悩みました。時友くんの分の布団も畳んでいいものか。ひとまず二人分畳みました。帰ってきて、このあと寝るつもりだったのに、と万が一言われてしまったら、素直に謝りましょう。
 忍者装束に着替えて、長屋の庭に出てみます。やあ、とか、とう、とかいう、高い声が聞こえてきました。きっとこの声は時友くんに違いありません! ぼくは声の方へ歩みました。空の高い日でした。昨日より随分とあたたかいです。
「えいっ、やあっ」
「時友くん!」
 やはり、声の主は時友くんでした。ぼくが呼びかけると、時友くんはこちらを振り返って、「あ、羽丹羽くん」と笑いました。彼の笑い顔はいつも柔らかくて優しくて、ぼくの心は穏やかになります。
「何をしているんですか?」
「手裏剣の練習をしていたんだ。昨日ねえ、いつもより遠くに打てたから、今日はもっと遠くへ打てると思ったの」
「朝から鍛錬をしていたんですね。素晴らしいです」
 彼は大変な努力家です。体育委員会はただでさえ体力づくりで大変そうなのに、朝稽古までしているとは。ぼくも見習わなければなりません。
「羽丹羽くんは、手裏剣に慣れた?」
「以前よりは、打てるようになったはずなのですが……。なかなか、時友くんみたいに、上手に打てません」
「ぼくもまだまだだよお」
 へにゃ、と笑って、時友くんは手を振りました。ぼくはそのひらひらと振った手にたくさんマメが出来ているのを見て、彼の努力の証に感銘を受けました。ぼくの手のひらは、まだつるりとしています。いつか彼のように、そして先輩たちのように、この手も切り傷や打ち身の痕がつくのでしょうか。痛いのは嫌だけれど、目標は高い方が頑張れます。
「羽丹羽くんも、一緒に練習しよう。そして終わったら、一緒に朝ごはんを食べに行こう」
「ええ、ええ! そうしましょう!」
 ぼくは彼から手裏剣を受け取ると、的に向かって大きく腕を振りました。手裏剣はふらふらと中途半端なところに落ちてしまいましたが、今日はなんだか、的に届きそうな気がします。手裏剣を拾い上げて、また的に向かって打ちました。今度はさっきより遠くまで風を切りました。
「すごいよ羽丹羽くん!」
 時友くんは、自分のことのように喜んで応援してくれます。ぼくは嬉しくなって、もっともっと頑張ろうと思えます。
 二人でたくさん、練習しました。汗まみれです。冬にかく汗は格別です。へとへとになったぼくたちは一緒に汗を拭いて、食堂へ向かいました。
 今朝のごはんは何でしょう。一日のはじまりがこんなに輝いていると、ああ、素敵な日になりそうだ、と思わずにはいられません。今日という日を、一日いちにちを、大切に生きていこう。食堂のおばちゃんにおはようございますと挨拶をして、ぼくたちは卵焼きとおにぎりを貰いました。時友くんと、いただきますと唱えながら、ぼくはしあわせだなあと思いました。さて、今日はどんな一日になるでしょう。おにぎりには梅干しが入っていて、その酸っぱさに口をすぼめたら、時友くんに笑われてしまうのでした。
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