お礼画面

暖かくやわらかい日差しの中、満開の桜が咲き誇る公園で結莉たちはお花見にやってきていた。
大きなレジャーシートに腰をおろし、くつろぐ一同。結莉がたくさん作ってきたお花見弁当に舌鼓をうちながら、ジュースを飲む子ども組(夏羽・織・晶・紺・綾・結莉)と酒を飲む大人組(隠神・赤城・花楓)。
夏羽たちにとって因縁のある赤城と花楓だが、結莉がどうしても一緒にお花見をしたいと言い二人も参加することになったのだ。
結莉の両隣は織と赤城で、結莉を挟んで時折にらみ合っている。
「結莉さん、少し膝を借りても良いでしょうか?」
「膝、ですか?はい、構いませんよ」
突然の赤城の申し出を結莉はにっこりと微笑んで承諾する。赤城は嬉しそうに微笑むと結莉に膝枕をしてもらい瞳を閉じた。
(っ!?赤城のヤロー!!)
悔しそうに織は赤城を睨みつける。
「ふふっ、赤城さんは時々甘えん坊さんです」
結莉はクスリと笑った後、優しく赤城の髪を撫でてやった。
結莉と赤城の様子を見ていた綾は、慌てて織の隣まで行き兄をつつく。
「ちょっと!?お兄ちゃん何やってんのよ!?」
「何って何が!?」
「馬鹿なの!?アレ、そのままにしていて良いわけ!?」
「良いわけないだろ!?」
「だったらどうにかしなさいよ!!」
「どうにかって言ったってなあ!」
結莉に気づかれないようコソコソと会話をする綾と織の前にヌッと現れたのは夏羽だった。
「か、夏羽さん?」
声をかける綾には見向きもせず、夏羽はスタスタと結莉に近づいていく。
「結莉さん、おかわりいる?飲み物はお茶で良い?」
「夏羽くん。ありがとう、じゃあお願いします。お茶で大丈夫よ」
にこやかに返答する結莉を前に夏羽は嬉しそうに少し笑む。タタタと小走りで駆けていき、料理を載せた小皿とお茶の入った紙コップを持って夏羽はすぐに戻ってきた。
「どうぞ」
「ありがとう」
夏羽が差し出した小皿と紙コップを結莉が受け取ったあと、夏羽はジッと何かを待つように彼女を見つめていた。それに気づいた結莉は夏羽に少し屈むように言うと、夏羽の頭を撫でてやった。夏羽は嬉しそうに結莉を見つめた後、自分の席へと戻っていく。
「か、夏羽さん?まさか、夏羽さんまで…!?」
青ざめる綾に落ち着け、と織は言い「アイツは結莉さんに甘えてるだけだ…と思う。いや、そうだよな。まさか、そんなはずは…」
自身で言っていて不安になってきた織は一人でブツブツと呟き始めた。
「織くん」
「おわあっ!?」
突然、結莉に話しかけられ織の肩がビクリと跳ね上がる。
「待って、動かないで…、ほら、桜の花びら」
結莉は織の頭に付いていた花びらを取ると、彼にわかるように花びらを見せた。
「あ…ありがと」
「桜、とっても綺麗です。皆で来られて良かった」
桜を見上げ、結莉はとても楽しそうだった。そんな結莉の表情を織はジッと見つめる。
「?」
気づいた結莉が不思議そうに織を見つめ返す。なんだか照れくさくなって織は慌てて目をそらし、俯いた。
トンっと肩に重みを感じて振り向くと、結莉が織の肩に寄りかかっていた。
「えっ、ちょっ、結莉さん!?」
ドギマギと慌てだす織に、「…もしかして迷惑だった?」と心配そうに結莉が言う。
「迷惑なんかじゃねーけど」
「良かった。…私の周りはなんだか甘えん坊さんが多くて。見ていたら私も、なんとなく」
そう言って照れくさそうに微笑む結莉はとても可愛くて、織はドキドキと胸を高鳴らせた。
不器用で、かける言葉が見つからなくて織は黙りこんでしまう。自分は赤城のように積極的に動けない、夏羽のように素直に甘えられない、大好きな人はこんな自分をこれからもずっと想い続けてくれるのだろうか。不安な気持ちが大きく心に渦巻いていく。
「織くん」
「?」
結莉はそっと織の耳元に囁く。
その言葉を聞いた織の顔は、みるみる朱に染まっていく。
恥ずかしくなったのか結莉は目を閉じると、眠るように織に寄りかかった。
満開の桜が風に揺れる。ひらひらと花びらが宙を舞う。

『大好きです』

囁かれた言葉が織の心を優しく撫でていった。不安だった気持ちが溶けてゆく。
優しくてあたたかくて、想いはいつだって自分に向けられていた。この人の心が離れてしまうなんてそんなことはないのだと思わせてくれた。

『好きだ』

恥ずかしくて言葉にできないけれど彼女にはきっと届いている。
届け、
コトノハ。

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