一幕『春風の帳』
男は僕に、いや、僕の後ろめがけて短剣を投げた。
何かに刺さった音と何かのうめき声が後ろから聞こえる。
「ここの世界住んでるならわかると思うんだけど、この世界じゃ"化け物"なんて言われてるやつがいるんだろ?そいつを狩りに来た」
「は……」
ゆっくりと後ろを振り返ると、そこには短剣が深々と刺さった黒く蠢く人型の何かが倒れている。
シルエットは確かに人なのだが、その手は鉤爪のように尖っており、顔も判別がつかない程に歪んでいた。それは人と言うにはあまりにも異質なものだった。
「それを先にいってくださいよ!」
「ごめんって。あいつ隠れてたからこっちも気づかないふりした方がいいかなって」
「それにしたってです!殺されるかと思いましたよ!」
「別にこの世界の人って死んだって大丈夫なんでしょ?」
「それはそれ!これはこれ!」
「あはは〜……あ」
男は何かに気づくと咄嗟に僕を突き飛ばした。
尻餅をつくと同時に水の跳ねる音が聞こえる。
そちらを見やるとそこには川に落ちた男と、男のいた位置に"化け物"が佇んでいた。
"化け物"は僕を視界に捉えると途端に襲いかかってくる。
「……結局僕が格闘しないといけないんですか!?」
男の安否も気になるが、それよりも先に身の安全を確保しなければ。
短剣が刺さっているおかげか、化け物の動きは鈍くなっている。
咄嗟に避けて落ちたシャベルを拾い構えた。
「く、来るなら来い化け物!」
正直こういうやつと戦うのは怖い。でも自分は人よりは力がある方だし、何より安否の分からない満身創痍の男を流したまま逃げ帰るのはなんか嫌だ。
今ここには僕しかいない。それならば、目の前の化け物を倒す。
化け物はうめき声をあげながらこちらに接近する。弱っているとはいえあの爪が当たればひとたまりもないだろう。
間合いに入ると爪をこちらに突き立ててきた。
「み、右腕!!」
攻撃をシャベルで受け止める。
「っ……!?」
だが、その攻撃は想像以上に力強いもので、浮いた体が後方へ軽く飛ばされてしまった。
「いっ……たぁ……」
あの化け物と正面から戦うのは得策ではない。
捨て身で戦うのもありだが、これ以上痛めつけられたくないので考える。
この森は思っていたよりも広い。
そして、人が寄り付かないので草が生え放題である。
それなら森の茂みに隠れながら不意をついて攻撃をする方がまだ勝ち目があるだろう。
化け物はこちらを見やる。悩んでいる暇はない。
「こ、こっちだ化け物!」
鉤爪が出る前にうまく隠れなければ。化け物を連れて森の中へと紛れる。
木々を移動し獣すらも寄り付かない程に生え放題になった草の中を屈んで移動する。痕跡を残さぬように慎重に行動を起こし、ある程度離れた場所に身を潜めた。
しばらくすると草を断ちながら化け物が現れた。どうやら僕を探しているようだ。
なんとか隠れることができたみたいだ。
さて、どこを打てばいいのだろうか。
腕以外の形状は普通の人とは変わらない。動きを封じるには足を狙ったらいいのだろうか。いや、鈍っているとはいえ早いことには変わりない。
それよりももっと狙えるものがある。
あの化け物の頭に刺さってる短剣。
あれを押し込んでみるのもいいかもしれない。
でもどうやって?
化け物の周りにあるものを確認しても木々しか存在しない。
そうだ。木の上からやつめがけて飛び降りて押し込めばいいのか。
木にのぼるにはこのシャベルは重くて邪魔だ。
……
化け物は茂みから少し出ているシャベルに気づく。そして、そのシャベルめがけて襲いかかった。
しかしその鉤爪は空を切る。
そこにはシャベルしかなく、シャベルの持ち主はそこにはいない。
丁度いい位置だ。
木の上から勢いよく飛び降りる。
「当たれ……!」
そしてその短剣めがけて踏んづけた。
しかし、踏んづけたのは短剣じゃなくて顔面だった。
「何こっち向いちゃってるんだよー!」
そりゃそうだ。影があったらそっち向くよな。僕だってそうする。
でも踏んづけたことには変わりない。
落下の勢いで化け物の頭を地面に叩きつける。
体を浮かせ化け物と距離を置くが、落下の衝撃によって足がもつれ咄嗟に逃げ隠れることができない。
化け物はそれでも起き上がり、僕を睨みつけた。気がした。
「……もうだめかな」
化け物がその鉤爪を僕に振りかざした途端、空を切る音が僕の横を掠めた。
何かに刺さった音と何かのうめき声が後ろから聞こえる。
「ここの世界住んでるならわかると思うんだけど、この世界じゃ"化け物"なんて言われてるやつがいるんだろ?そいつを狩りに来た」
「は……」
ゆっくりと後ろを振り返ると、そこには短剣が深々と刺さった黒く蠢く人型の何かが倒れている。
シルエットは確かに人なのだが、その手は鉤爪のように尖っており、顔も判別がつかない程に歪んでいた。それは人と言うにはあまりにも異質なものだった。
「それを先にいってくださいよ!」
「ごめんって。あいつ隠れてたからこっちも気づかないふりした方がいいかなって」
「それにしたってです!殺されるかと思いましたよ!」
「別にこの世界の人って死んだって大丈夫なんでしょ?」
「それはそれ!これはこれ!」
「あはは〜……あ」
男は何かに気づくと咄嗟に僕を突き飛ばした。
尻餅をつくと同時に水の跳ねる音が聞こえる。
そちらを見やるとそこには川に落ちた男と、男のいた位置に"化け物"が佇んでいた。
"化け物"は僕を視界に捉えると途端に襲いかかってくる。
「……結局僕が格闘しないといけないんですか!?」
男の安否も気になるが、それよりも先に身の安全を確保しなければ。
短剣が刺さっているおかげか、化け物の動きは鈍くなっている。
咄嗟に避けて落ちたシャベルを拾い構えた。
「く、来るなら来い化け物!」
正直こういうやつと戦うのは怖い。でも自分は人よりは力がある方だし、何より安否の分からない満身創痍の男を流したまま逃げ帰るのはなんか嫌だ。
今ここには僕しかいない。それならば、目の前の化け物を倒す。
化け物はうめき声をあげながらこちらに接近する。弱っているとはいえあの爪が当たればひとたまりもないだろう。
間合いに入ると爪をこちらに突き立ててきた。
「み、右腕!!」
攻撃をシャベルで受け止める。
「っ……!?」
だが、その攻撃は想像以上に力強いもので、浮いた体が後方へ軽く飛ばされてしまった。
「いっ……たぁ……」
あの化け物と正面から戦うのは得策ではない。
捨て身で戦うのもありだが、これ以上痛めつけられたくないので考える。
この森は思っていたよりも広い。
そして、人が寄り付かないので草が生え放題である。
それなら森の茂みに隠れながら不意をついて攻撃をする方がまだ勝ち目があるだろう。
化け物はこちらを見やる。悩んでいる暇はない。
「こ、こっちだ化け物!」
鉤爪が出る前にうまく隠れなければ。化け物を連れて森の中へと紛れる。
木々を移動し獣すらも寄り付かない程に生え放題になった草の中を屈んで移動する。痕跡を残さぬように慎重に行動を起こし、ある程度離れた場所に身を潜めた。
しばらくすると草を断ちながら化け物が現れた。どうやら僕を探しているようだ。
なんとか隠れることができたみたいだ。
さて、どこを打てばいいのだろうか。
腕以外の形状は普通の人とは変わらない。動きを封じるには足を狙ったらいいのだろうか。いや、鈍っているとはいえ早いことには変わりない。
それよりももっと狙えるものがある。
あの化け物の頭に刺さってる短剣。
あれを押し込んでみるのもいいかもしれない。
でもどうやって?
化け物の周りにあるものを確認しても木々しか存在しない。
そうだ。木の上からやつめがけて飛び降りて押し込めばいいのか。
木にのぼるにはこのシャベルは重くて邪魔だ。
……
化け物は茂みから少し出ているシャベルに気づく。そして、そのシャベルめがけて襲いかかった。
しかしその鉤爪は空を切る。
そこにはシャベルしかなく、シャベルの持ち主はそこにはいない。
丁度いい位置だ。
木の上から勢いよく飛び降りる。
「当たれ……!」
そしてその短剣めがけて踏んづけた。
しかし、踏んづけたのは短剣じゃなくて顔面だった。
「何こっち向いちゃってるんだよー!」
そりゃそうだ。影があったらそっち向くよな。僕だってそうする。
でも踏んづけたことには変わりない。
落下の勢いで化け物の頭を地面に叩きつける。
体を浮かせ化け物と距離を置くが、落下の衝撃によって足がもつれ咄嗟に逃げ隠れることができない。
化け物はそれでも起き上がり、僕を睨みつけた。気がした。
「……もうだめかな」
化け物がその鉤爪を僕に振りかざした途端、空を切る音が僕の横を掠めた。