二幕『朧月夜の揺籃歌』
朝日を顔に浴び、ゆっくりと意識が浮上する。気づけば朝になっていた。あの子守唄を聞いたおかげで、なんだか心地のいい夢を……いや、記憶を見た気がする。
そういえば、スズメはあの後ちゃんと眠ったのだろうか。ぼんやりとした思考のままベッドから立ちあがろうとすると、足に何かが当たった。床に落ちている何かを確認すれば、それは気絶するように倒れたスズメであった。
「す、スズメさん!?」
すっかり眠気が吹き飛び、一目散に飛び降りて揺り起こす。スズメちゃんは小さく唸り声をあげて、ゆっくりと瞼を起こしこちらを見た。
「だ、大丈夫?」
「はいぃ……あれ、もう朝でしたか……?」
「朝……だけど。スズメさん……もしかして眠れてなかったり?」
「あ〜……大丈夫です、ちゃんと眠れてます。ご心配をおかけしたみたいで……」
「そ、そう……?」
返答に対して疑問を抱くが、当のスズメはゆっくりと状態を起こして背伸びをすると、あっという間にいつもの調子に戻っていた。
「おはようございます。今日はいい天気で良かったですね。まあ、少し肌寒いですが……」
そして昨夜と変わらぬ穏やかな顔でこちらを見て微笑む。
「う、うん。おはよう。今日はその……怖い人のところに行くんだっけ」
「あ、はい……ニトさんをどうにかできないか頼み込まないと」
「……もし何か危ない目にあったら言ってくださいね?僕たちが守るので!」
「わ、守ってくださるなんて助かります。私、あまり力はないので……でもイルさんも私と同じくらいに見えるのですけど、その……大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ!僕、力はある方なので!それにこれもあるし!」
そういって僕は鞄から大きめのシャベルを半分取り出す。
「え、あ……え!?」
「すごい鞄ですよねぇ。鞄に入れられる大きさならなんでも入っちゃうみたいで。あと全然重くならないし」
「へ〜!すごい!これがあったら遠出するとき便利なんだろうな……」
「すっごい便利ですよ、同じような鞄があったらいいんだけどな……」
そんな話をしていると突然、バンと勢いよく扉が開かれた。
「いる!おそいー!!いつまでねむりこけてるんだー!!」
威勢だけはいい舌足らずな発言と共に現れたのは、大きな服に身を包んだニトだった。
ただでさえ元の姿でもサイズの合っていない服を着ているのに、小さくなったから余計に服に着せられてるように見える。
「あぁニト……よく似合ってるね」
「ちがーう!!おはようでしょ!!そこは!!」
「……おはよう」
なんて可愛らしい指摘なんだ……仮に元の姿で同じことを言われたとしてもこうはならないだろう……なんだか微笑ましくなった。
「ニトさん、おはようございます。すぐいくから下で待っててくださいね」
「おー、わかればいいんだ!はやくしろよ!」
子供を相手にする対応をとるスズメと背伸びした子供みたいに胸を張るニト。見ていてなんだか面白い。
ニトは早足で一階へと降りていく。
「音もなく現れて音もなく去っていきましたね……」
「ね……なんか変わった服着てたし……」
ニトはいつもの格好ではなく、様々な色が混ざり合ったシャツを身につけていた。シャツほどではないが、ズボンにもところどころ色がついており、裾は何重にも折られていた。
「あれ、自前の服じゃないんですか?」
「今までにあんな服着てた覚えないけどな……どこで見つけたのやら」
一回から「まだー!?」という声が聞こえてくる。これ以上待たせるわけにもいかないので、僕たちは急いで身支度をして階段を降りた。
一階では既にウリとニトが玄関の方にいた。ゆっくりする暇もなく家から出ることになる。朝日は少し高くなっていた。
「うわ……」
先ほどまで騒いでいたニトが急に静かになる。どうやら朝日にやられたようで眩しそうに目を瞑っていた。
「ニトさん……朝日眩しいね」
「まぶしい……まぶしいのきらい……」
スズメは日が当たらないようにニトの前にでる。
「私の前を歩いてね。あ、手繋ごっか?」
「……いらない」
ニトの目は少しずつではあるが開かれていく。数度瞬きをして瞼が上がれば「もうだいじょうぶ」と僕たちを見た。
「わかった。じゃあ行こっか」
後ろを歩くニトを気遣いながらも、僕たちは怖い人に会うために鬱蒼と茂った森の中へと入る。
あたりは木々と茂みしかなく、一歩間違えれば迷いそうな深い森であった。
ウリは怖い人の家の目星はついているのか、迷いなく道を歩いている。それに僕たちはついていく。
「一応、この森にはいくつかコテージがあるのでもし町に戻れなくてもそこを探せばなんとかなると思います……」
スズメはそう告げる。スズメの後ろをついて歩くニトは物珍しそうに辺りを見回している。
「にしても、ウリってすごいよね〜。こんな森すぐに迷っちゃうのに真っ直ぐ歩いてるなんて」
「それは確かに……そうかも。私も何年もここに住んでいるんですけど、それでも迷いそうになっちゃうので……もしかしてここに何度かいらっしゃったことがあるのですか?」
「少しだけな」
ウリは振り向かずに返答する。
「フキちゃんですらよく迷ってるのに……ウリさんはすごいですね」
「フキちゃん?」
「あ、えっと。3ノ国の天使様のことです。こう呼んでるのフキちゃんにバレたら怒られるので内緒でお願いします……」
「フキちゃん……うん……」
住民に裏でちゃん付けされる天使様か……。
「そういえばフキちゃんも最近見てないんですよねぇ……」
「え、そうなんですか?」
「はい。全く、緊急事態なのにどこに行ったのやら……」
はぁ、とスズメはため息をつく。ふと、彼女の背後に違和感を感じて視線を向ける。
今まで静かについてきていたニトがいなくなっていた。
「あれ、ニトは?」
「え?」
そう言われてスズメは振り返り、あたりをキョロキョロと見渡す。そして見つけたのか指を差すと、少し後方でニトが立ち止まっていた。
「ちょっとニト!止まるなら一言言ってよ!」
ニトの方へ駆け寄る。近付いてわかったことだが、ニトは左を向いて何かを見ていた。
「……」
「ちょっと、ニト?」
「……あ!!」
突然大きな声を出したニトは向いていた方向に駆け出した。
「ちょっと!?ニト──」
ニトの腕を掴みにいこうとした途端、視界の端に黒い影が見えた。
黒い影──狼のような見た目をした化け物は茂みから飛び出し、ニトの背後めがけて噛みつこうとしていた。
そういえば、スズメはあの後ちゃんと眠ったのだろうか。ぼんやりとした思考のままベッドから立ちあがろうとすると、足に何かが当たった。床に落ちている何かを確認すれば、それは気絶するように倒れたスズメであった。
「す、スズメさん!?」
すっかり眠気が吹き飛び、一目散に飛び降りて揺り起こす。スズメちゃんは小さく唸り声をあげて、ゆっくりと瞼を起こしこちらを見た。
「だ、大丈夫?」
「はいぃ……あれ、もう朝でしたか……?」
「朝……だけど。スズメさん……もしかして眠れてなかったり?」
「あ〜……大丈夫です、ちゃんと眠れてます。ご心配をおかけしたみたいで……」
「そ、そう……?」
返答に対して疑問を抱くが、当のスズメはゆっくりと状態を起こして背伸びをすると、あっという間にいつもの調子に戻っていた。
「おはようございます。今日はいい天気で良かったですね。まあ、少し肌寒いですが……」
そして昨夜と変わらぬ穏やかな顔でこちらを見て微笑む。
「う、うん。おはよう。今日はその……怖い人のところに行くんだっけ」
「あ、はい……ニトさんをどうにかできないか頼み込まないと」
「……もし何か危ない目にあったら言ってくださいね?僕たちが守るので!」
「わ、守ってくださるなんて助かります。私、あまり力はないので……でもイルさんも私と同じくらいに見えるのですけど、その……大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ!僕、力はある方なので!それにこれもあるし!」
そういって僕は鞄から大きめのシャベルを半分取り出す。
「え、あ……え!?」
「すごい鞄ですよねぇ。鞄に入れられる大きさならなんでも入っちゃうみたいで。あと全然重くならないし」
「へ〜!すごい!これがあったら遠出するとき便利なんだろうな……」
「すっごい便利ですよ、同じような鞄があったらいいんだけどな……」
そんな話をしていると突然、バンと勢いよく扉が開かれた。
「いる!おそいー!!いつまでねむりこけてるんだー!!」
威勢だけはいい舌足らずな発言と共に現れたのは、大きな服に身を包んだニトだった。
ただでさえ元の姿でもサイズの合っていない服を着ているのに、小さくなったから余計に服に着せられてるように見える。
「あぁニト……よく似合ってるね」
「ちがーう!!おはようでしょ!!そこは!!」
「……おはよう」
なんて可愛らしい指摘なんだ……仮に元の姿で同じことを言われたとしてもこうはならないだろう……なんだか微笑ましくなった。
「ニトさん、おはようございます。すぐいくから下で待っててくださいね」
「おー、わかればいいんだ!はやくしろよ!」
子供を相手にする対応をとるスズメと背伸びした子供みたいに胸を張るニト。見ていてなんだか面白い。
ニトは早足で一階へと降りていく。
「音もなく現れて音もなく去っていきましたね……」
「ね……なんか変わった服着てたし……」
ニトはいつもの格好ではなく、様々な色が混ざり合ったシャツを身につけていた。シャツほどではないが、ズボンにもところどころ色がついており、裾は何重にも折られていた。
「あれ、自前の服じゃないんですか?」
「今までにあんな服着てた覚えないけどな……どこで見つけたのやら」
一回から「まだー!?」という声が聞こえてくる。これ以上待たせるわけにもいかないので、僕たちは急いで身支度をして階段を降りた。
一階では既にウリとニトが玄関の方にいた。ゆっくりする暇もなく家から出ることになる。朝日は少し高くなっていた。
「うわ……」
先ほどまで騒いでいたニトが急に静かになる。どうやら朝日にやられたようで眩しそうに目を瞑っていた。
「ニトさん……朝日眩しいね」
「まぶしい……まぶしいのきらい……」
スズメは日が当たらないようにニトの前にでる。
「私の前を歩いてね。あ、手繋ごっか?」
「……いらない」
ニトの目は少しずつではあるが開かれていく。数度瞬きをして瞼が上がれば「もうだいじょうぶ」と僕たちを見た。
「わかった。じゃあ行こっか」
後ろを歩くニトを気遣いながらも、僕たちは怖い人に会うために鬱蒼と茂った森の中へと入る。
あたりは木々と茂みしかなく、一歩間違えれば迷いそうな深い森であった。
ウリは怖い人の家の目星はついているのか、迷いなく道を歩いている。それに僕たちはついていく。
「一応、この森にはいくつかコテージがあるのでもし町に戻れなくてもそこを探せばなんとかなると思います……」
スズメはそう告げる。スズメの後ろをついて歩くニトは物珍しそうに辺りを見回している。
「にしても、ウリってすごいよね〜。こんな森すぐに迷っちゃうのに真っ直ぐ歩いてるなんて」
「それは確かに……そうかも。私も何年もここに住んでいるんですけど、それでも迷いそうになっちゃうので……もしかしてここに何度かいらっしゃったことがあるのですか?」
「少しだけな」
ウリは振り向かずに返答する。
「フキちゃんですらよく迷ってるのに……ウリさんはすごいですね」
「フキちゃん?」
「あ、えっと。3ノ国の天使様のことです。こう呼んでるのフキちゃんにバレたら怒られるので内緒でお願いします……」
「フキちゃん……うん……」
住民に裏でちゃん付けされる天使様か……。
「そういえばフキちゃんも最近見てないんですよねぇ……」
「え、そうなんですか?」
「はい。全く、緊急事態なのにどこに行ったのやら……」
はぁ、とスズメはため息をつく。ふと、彼女の背後に違和感を感じて視線を向ける。
今まで静かについてきていたニトがいなくなっていた。
「あれ、ニトは?」
「え?」
そう言われてスズメは振り返り、あたりをキョロキョロと見渡す。そして見つけたのか指を差すと、少し後方でニトが立ち止まっていた。
「ちょっとニト!止まるなら一言言ってよ!」
ニトの方へ駆け寄る。近付いてわかったことだが、ニトは左を向いて何かを見ていた。
「……」
「ちょっと、ニト?」
「……あ!!」
突然大きな声を出したニトは向いていた方向に駆け出した。
「ちょっと!?ニト──」
ニトの腕を掴みにいこうとした途端、視界の端に黒い影が見えた。
黒い影──狼のような見た目をした化け物は茂みから飛び出し、ニトの背後めがけて噛みつこうとしていた。