二幕『朧月夜の揺籃歌』

「……」
「……」

ニトを見つけたと言われ、僕たちは急いでニトのいる公園へ向かった。
何やら複雑な面持ちをしていたウリにどうなっているかを聞き出したら「見たらわかる」と突っぱねられたからだ。
怪我はないらしいし死んでいる様子もなかったため、ひとまずは安心した。そこまでは良かったのだが……。

「……ウリ、これ本当にニトなの?」
「……」
「……?」

ベンチに腰掛けているニト……はキョトンとした顔でこちらを見つめてくる。その姿を複雑な面持ちで見ていた。
正直信じたくないなと思ったからだ。

「わ……わ……!!ニトさんってどんなひどい人かと思いましたけど、想像以上にかわいい方ですね!」
「……いや、僕の記憶にあるニトはこんな子供じゃなかったはず」

そう。発見されたニトは何故か子供になっていたのだ。
僕よりも小さい……スズメと大体同じくらいの背丈になっている。それだけで済めば良かったのに。

「おねーさん、だれなんですかー?」
「おね……!?お姉さんはスズメっていうんだよ〜!」
「すずめ?」
「うん〜!スズメお姉さんだよ!」
「へー」

どうやら精神までも退行してしまっているらしく、ひどく戦慄した。辛うじて僕たちのことは覚えていたが、それ以外のことは覚えていないようだ。
あの人を小馬鹿にしたような笑顔は跡形もなく消えており、信じられないくらい眩しい笑顔をしていた。よく回っていたあの喋りも、今では拙く呂律が回っていない。そんな彼にスズメはデレデレであった。
かくいうウリは頭を抱えている。

「……ウリ、こいつ本当にニトなの?」
「念の為確認もしたが、残念ながらこいつは本当にニトだ」
「どうしてこんなことに……」
「……」

ウリは一つため息をついて、口を開く。

「魔法だ。こいつは魔法にかかっている」
「魔法?」
「転換という魔法が存在する。相手の魂に根付いた情報を書き換える魔法だ。それによってここまで幼くさせられたのだろう」
「えぇ……それどうにかならないの?」
「どうにかしようとはした。が……まず魔法の効果が強すぎる。気が遠くなるような長い時間をかけないと解除ができない」
「……流石に長すぎるね。あともう一つは?」
「……」

ウリは苛立ちを孕んだ顔でニトに近づくと、ニトの頭に手を置く。
そして乱雑に頭を撫ではじめた。僕にしたみたいに。

「うわ〜」
「……」

ニトはぐらぐらと頭を撫でられている。めちゃくちゃ嫌そうな顔をしている。
しばらくするとその手をパッと離した。ニトはその勢いでベンチに横たわるように倒れる。

「こんなちっちゃな子になんてことを……!」
「あたまが……ぐわんぐわんする……」

そんな二人を意にも介さないで僕の方に顔を向けた。

「こいつには既に解除するための魔法が行使されていた」
「……今の、魔法かけられてるか調べてたんですか」
「え、そうだが」
「……じゃあ僕の頭を撫でたのは」
「あぁ……あれはお前が重力魔法にかかってたから解除しただけだぞ」
「えぇ……!?」

じゃあさっき頭を撫でてくれたのは心配からやったことじゃなかったの……!?
そんな僕の悲しみなぞ意にも介さないでウリは言葉を続けた。

「転換によって見た目も精神もこうなってはいるが……元々は一つの魔法だ。だがどういうわけか二つに分離されている」
「分離」
「つまり転換を解く時間が通常の二倍になった。確実に嫌がらせでこうなったのだろうな」
「い、嫌がらせかぁ……」
「絶対ダルの仕業だろこれ……面倒なことしやがってふざけるな……」
「うわ〜、うりがこわ〜いかおしてる〜」

怒りを露わにした表情のウリと、そんなウリを不思議そうに見ているニト。
なんというか、色々と大変なことになってしまった。

「……あの」

そんな中、さっきまでニトにデレていたスズメが声を上げた。

「この町から離れた森の中に、魔法の研究をしている人がいるんです。その人に聞けば転換魔法の解除はどうにかなるんじゃないかな……なんて」
「え、いるんだ!?」
「はい……ですがその……少々怖い人なので……」

と、不安げな声を上げながら答える。
それを聞いたウリは思い出したかのようにハッとした顔をした後に、再度頭を悩ませた。

「あいつか……」
「あいつです……」
「え……そんなにやばい人なんですか?」
「……正直あまり関わりたくないです。けど、あの人に頼る方がすぐにでも魔法を解除できると思うのです」
「確かに……」

その人を知っている二人はとても頭を悩ませている。
そんな二人を見ていたニトはキョトンとした顔をした後、ベンチから降りておぼつかない足取りでこちらに向かってきた。

「あのふたり、あたまいたいの?」
「そういうわけではないと思う」
「ふーん」

ニトは何かを言いたげに視線を泳がせる。
自分よりも視点が低いニトを見るのはなんというか違和感があるな。

「……何か言いたいことでもあるの?」
「あ、えっとね……」

ニトは意を決したように僕と目を合わせる。

「おれをたすけてほしい」
「はい?」
「だっているって、そういうのすきでしょ?」

なんて真剣な眼差しをこちらに向けてきた。
……ああっこの子はなんて純粋な子なんだ!もう一生このままでいて欲しいんだけど!

「助ける〜!!イルお姉さんが助けてあげるからね〜!!」
「ぐえ」

ニトを力強く抱きしめた。ニトは心底嫌そうに僕を剥がそうとしているが、そんなことどうだっていい。僕の方が力が強いから剥がれるわけないし。

「ウリ!スズメさん!こんなかわいい子が助けて欲しいって言ってるんだからやばいやつでも会いに行こう!もしかするとこれがきっかけで町の人たちも戻ってくるかもしれないし!」

頭を抱える二人に向かって声高々と言い放った。
それを聞いたスズメはハッとした顔をして、

「そうですね……行くことで今回の件を解決する糸口につながるのであれば……!行ってみましょう!」

と、意気揚々と声を上げた。

「ウリも行こう!ね!!」
「あぁ……わかった。オレも気になることがあるしな」

ウリは二人のその姿を見て呆れた表情をしたが、二つ返事で承諾してくれた。

「よーしそうと決まれば明日のためにも今日は寝ましょう!」
「そうしましょう!」
「……」
「いる〜はなしてよ〜」

静寂の続いた町中は、久しくなかった一時の賑やかさでほんの少し色づいた。
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