二幕『朧月夜の揺籃歌』
「な、え?」
指先一本動かせぬまま、足を浮かされて動きを縛られている。
長身というにはあまりにも大きすぎる、薄金色の髪をした男。柔らかな物腰でスーツを着ているから紳士的に見える。
男はニコリと微笑んで、色の見えないその目でこちらをじっと見ている。目が見えないのに合っていると感じて気味が悪い。
「だ、誰……?というかなんで僕の名前を知ってるの……?」
「知ってるも何もアナタは有名人ですからねぇ、随分昔に派手に暴れていましたから」
「……?どういうこと?」
「おっと、イルさんには記憶がないんでしたね。これは失礼、自己紹介をしなくては」
わざとらしく話を逸らし、仰々しくお辞儀をする。
「どうぞ、ボクのことは"ダル"とお呼びください」
「……それで、ダル……さんは何をしにきたんですか?僕に何がしたいんですか?」
「機嫌がよさそうでしたので折角ですしからかいに来ました」
ダルは冗談めかしてクスクスと笑う。
「僕は君の遊びに付き合えるほど優しくはないんですけど……というか、早くこれ、離してくれませんか?」
「つれませんね〜、冗談だったのに」
「仕方ないですね」と張り付いたような笑顔を浮かべたダルは、指をこちらに向けると空を切るように背後に指を向けた。
途端、体はぐいと引っ張られるように動き出し、くるりと回ったかと思うとそのまま壁に激突する。背中にじんわりと痛みが広がる。
「これ……あの子供が使ってた……」
「子供?あぁ、あのガキのことですか」
「っ……知ってるの?だったら教えて欲しいんだけどっ……というか会わせてよ……!」
「えー、どうしようかな」
何が楽しいのか、男は上機嫌に指を振るうとまた僕の体は動かなくなる。まるで何かに抑え込まれているかのように。
「会いたかったら自分で探せば?まあ、あのガキは殺されそうになったわけですからアナタには会いたくないでしょうけど」
「……」
「あはは。そんなに会いたいなら命乞いでもしてみてはいかがですか?『殺されそうなんです!助けてください!』なんてみっともなく叫んでみたら案外来てくれるかもしれませんよ?」
「……どういうことなんですか?」
「ふふ、どういうことでしょうね?」
ダルはあの子供と関わりがある。そして記憶がなくなる前の僕のことを知っている。この男から話を聞き出せば、あるいはこの男の後をついていけば……あの子供のことを、そして僕自身のことを知れるのではないだろうか。
「……お願いします、教えてください。あの子供のことも……僕のことも」
「……仕方ないですねぇ」
ダルは考える素振りを見せた後、あっさりと承諾をした。
「こんなに素敵な夜なのです。折角ですから、全部吐き出してしまいましょう」
そしてうっすらと瞼を開け、こちらを見る。
その白い瞳はとても丸く、とても綺麗な緑色の瞳をしていた。
彼は、天使だ。
そう直感した。
「……と、言いたかったところですが」
瞬きをしたその刹那、ダルの背後に現れたそれはダルに向かって一直線に何かを振り落とす。
「邪魔が入りましたねぇ。残念です」
「ダル、何の要件でこんなところに現れた?」
そこにいたのはウリだった。
ウリの振り下ろした棍棒を、ダルは軽々しく避ける。
「おー怖い怖い。そんなに怒らないでくださいよ〜」
「……」
ウリは棍棒を構えてダルを睨みつける。
そんなダルは焦り一つ見せずにニヤニヤとウリを見ていた。
「言われなくても帰りますよ、野良猫さん?」
ダルは僕に視線を向ける。
そして瞼を閉じてにこりと微笑んだ。
「ということで、この話は無しです。また会いましょうね、イルさん?」
そう言うと瞬きをする間にダルは消え去っていた。
多分……こうなることをわかってあえて承諾したのだろう。初めから話す気などなかったのだ。狡いやり口だ。
ウリはダルがいなくなったことを確認すると一つため息をつき、こちらに振り向く。
「イル、怪我はしてないか?」
「だ、大丈夫……ありがとう」
「はぁ……」
ウリは僕の隣まで歩みを進めると、乱雑に頭に手を置いた。
「ぎゃ」
「さっきの男には気をつけろ。悪い奴ではないが……何をしでかすかわからないからな」
「う、はい……」
あまりにも乱雑すぎて頭がグラグラ動く。だがこれでも心配してくれたのだろう。それだけでなんだか嬉しく思い、ふっと体から力が抜けた。
悪い奴ではないらしいが、先ほどかなり手荒に扱われたせいで本当にそうなのか疑わしい。
「と、ところでニトは見つかったの?」
「あぁ、そう。その話をしたくて戻ってきたんだが……」
そう彼が言いかけると慌てた足音と共に扉を開ける音が聞こえる。
慌てた顔をしたスズメが戻ってきていた。
「なんかすごい音がして慌てて戻ってきたんですけど……大丈夫ですか!?何かあったりとか……ってどちら様です!?もしかしてあなたが……!」
「あっ違う!誤解!この人はさっき言ってたウリって人!何もされてないから!」
「えっこの方がウリさん!?」
スズメは「すみません」と何度もペコペコと頭を下げる。一連の流れを浴びたウリは困惑の表情を浮かべていた。
「いやそれよりも……話していいか?」
「あ、うん……!」
「……?話、ですか?」
「そうなんです、ニトについて話があるみたいで」
「あー……」
スズメちゃんは少々混乱しながらも納得の表情を浮かべウリの方を見る。
話していいと言う空気を感じたウリは、再度口を開いた。
「ニトを見つけた、……」
その発言と表情は、何やら複雑な感情を露わにしていた。
指先一本動かせぬまま、足を浮かされて動きを縛られている。
長身というにはあまりにも大きすぎる、薄金色の髪をした男。柔らかな物腰でスーツを着ているから紳士的に見える。
男はニコリと微笑んで、色の見えないその目でこちらをじっと見ている。目が見えないのに合っていると感じて気味が悪い。
「だ、誰……?というかなんで僕の名前を知ってるの……?」
「知ってるも何もアナタは有名人ですからねぇ、随分昔に派手に暴れていましたから」
「……?どういうこと?」
「おっと、イルさんには記憶がないんでしたね。これは失礼、自己紹介をしなくては」
わざとらしく話を逸らし、仰々しくお辞儀をする。
「どうぞ、ボクのことは"ダル"とお呼びください」
「……それで、ダル……さんは何をしにきたんですか?僕に何がしたいんですか?」
「機嫌がよさそうでしたので折角ですしからかいに来ました」
ダルは冗談めかしてクスクスと笑う。
「僕は君の遊びに付き合えるほど優しくはないんですけど……というか、早くこれ、離してくれませんか?」
「つれませんね〜、冗談だったのに」
「仕方ないですね」と張り付いたような笑顔を浮かべたダルは、指をこちらに向けると空を切るように背後に指を向けた。
途端、体はぐいと引っ張られるように動き出し、くるりと回ったかと思うとそのまま壁に激突する。背中にじんわりと痛みが広がる。
「これ……あの子供が使ってた……」
「子供?あぁ、あのガキのことですか」
「っ……知ってるの?だったら教えて欲しいんだけどっ……というか会わせてよ……!」
「えー、どうしようかな」
何が楽しいのか、男は上機嫌に指を振るうとまた僕の体は動かなくなる。まるで何かに抑え込まれているかのように。
「会いたかったら自分で探せば?まあ、あのガキは殺されそうになったわけですからアナタには会いたくないでしょうけど」
「……」
「あはは。そんなに会いたいなら命乞いでもしてみてはいかがですか?『殺されそうなんです!助けてください!』なんてみっともなく叫んでみたら案外来てくれるかもしれませんよ?」
「……どういうことなんですか?」
「ふふ、どういうことでしょうね?」
ダルはあの子供と関わりがある。そして記憶がなくなる前の僕のことを知っている。この男から話を聞き出せば、あるいはこの男の後をついていけば……あの子供のことを、そして僕自身のことを知れるのではないだろうか。
「……お願いします、教えてください。あの子供のことも……僕のことも」
「……仕方ないですねぇ」
ダルは考える素振りを見せた後、あっさりと承諾をした。
「こんなに素敵な夜なのです。折角ですから、全部吐き出してしまいましょう」
そしてうっすらと瞼を開け、こちらを見る。
その白い瞳はとても丸く、とても綺麗な緑色の瞳をしていた。
彼は、天使だ。
そう直感した。
「……と、言いたかったところですが」
瞬きをしたその刹那、ダルの背後に現れたそれはダルに向かって一直線に何かを振り落とす。
「邪魔が入りましたねぇ。残念です」
「ダル、何の要件でこんなところに現れた?」
そこにいたのはウリだった。
ウリの振り下ろした棍棒を、ダルは軽々しく避ける。
「おー怖い怖い。そんなに怒らないでくださいよ〜」
「……」
ウリは棍棒を構えてダルを睨みつける。
そんなダルは焦り一つ見せずにニヤニヤとウリを見ていた。
「言われなくても帰りますよ、野良猫さん?」
ダルは僕に視線を向ける。
そして瞼を閉じてにこりと微笑んだ。
「ということで、この話は無しです。また会いましょうね、イルさん?」
そう言うと瞬きをする間にダルは消え去っていた。
多分……こうなることをわかってあえて承諾したのだろう。初めから話す気などなかったのだ。狡いやり口だ。
ウリはダルがいなくなったことを確認すると一つため息をつき、こちらに振り向く。
「イル、怪我はしてないか?」
「だ、大丈夫……ありがとう」
「はぁ……」
ウリは僕の隣まで歩みを進めると、乱雑に頭に手を置いた。
「ぎゃ」
「さっきの男には気をつけろ。悪い奴ではないが……何をしでかすかわからないからな」
「う、はい……」
あまりにも乱雑すぎて頭がグラグラ動く。だがこれでも心配してくれたのだろう。それだけでなんだか嬉しく思い、ふっと体から力が抜けた。
悪い奴ではないらしいが、先ほどかなり手荒に扱われたせいで本当にそうなのか疑わしい。
「と、ところでニトは見つかったの?」
「あぁ、そう。その話をしたくて戻ってきたんだが……」
そう彼が言いかけると慌てた足音と共に扉を開ける音が聞こえる。
慌てた顔をしたスズメが戻ってきていた。
「なんかすごい音がして慌てて戻ってきたんですけど……大丈夫ですか!?何かあったりとか……ってどちら様です!?もしかしてあなたが……!」
「あっ違う!誤解!この人はさっき言ってたウリって人!何もされてないから!」
「えっこの方がウリさん!?」
スズメは「すみません」と何度もペコペコと頭を下げる。一連の流れを浴びたウリは困惑の表情を浮かべていた。
「いやそれよりも……話していいか?」
「あ、うん……!」
「……?話、ですか?」
「そうなんです、ニトについて話があるみたいで」
「あー……」
スズメちゃんは少々混乱しながらも納得の表情を浮かべウリの方を見る。
話していいと言う空気を感じたウリは、再度口を開いた。
「ニトを見つけた、……」
その発言と表情は、何やら複雑な感情を露わにしていた。