二幕『朧月夜の揺籃歌』
「着きました!」
二つの足音だけがこだまする町中に手を引かれたどり着いた先、この町の最奥にある建物の前でスズメは止まる。
その建物はコテージのような外観をしており、最上階はひらけていた。
「ここ、旅人さんが来た時におすすめするコテージなんですよね。まあ、最近はめっきり来なくなったんですが」
と、スズメは苦笑いをする。
「見せたいものはこの上です!」と再び僕の手を引いて中へと入っていく。
コテージの中は小綺麗で、使用感のある木製の家具がいくつか置かれていた。シックな作りの空間を通り抜けていく。
階段に足をつけ、上り続ければ終点である扉の前で立ち止まった。
「とっておきの場所はこの先にあります!」
と、やや自慢げにスズメは扉を開けるように催促してくる。鼓動が早まるのを感じながらその木の扉を開けた。
……はじめに感じるのは頬を撫でる温度。
その冷たさと相反した暖かさが目に飛び込んできた。
広いテラスに足を踏み入れた先に見えたのは、満点の星空と仄かに光る町並みだった。
人のいない町はただ、夜に攫われないよう仄かに照らされるのみ。それをきらきらと白く、青く、赤く輝く星が見下ろしていた。
その異常なまでの静けさが目に映る情景を一層輝かせる。
「綺麗……」
思わず口から言葉がこぼれる。それくらい綺麗だったのだ。
一歩ずつ歩みを進め、ひんやりとした感触の手すりに手を滑らせる。
冬の終わりを告げ、春の色を見せ始める頃合いのような……どこか寂しさを感じ、しかしどこか暖かさを感じる。そんな国が見せる静かな景色に心を奪われていた。
「綺麗でしょう!ここからの景色結構人気なんですよね!」
「すごい……星が綺麗……町も綺麗……すっごい綺麗……」
「でしょでしょ!」
うまく言葉を紡げずに単純な言葉しか口に出ないのが恥ずかしい。スズメは自慢げに胸を張る。
あぁ……こんな景色僕だけみていいんだろうか……多分ウリは見たことあるんだろうけど……。ああ、ごめんねニト、いい景色先に見ちゃった。
「夜ってね、まあ暗いし不気味だし何が出るかわからない恐ろしさがあるんだけど、心地よい静けさと明るさがなんだか安心するんですよねぇ」
スズメは、町を見下ろす。
「だから私、この町が好きなんです。安らぎのあるこの町が、国が……大好きです」
そして微笑んだ。
それは愛しさと寂しさが入り混じっているような……そう感じる笑みだった。
「……そうなんですね。だったら、余計にこの町から人がいなくなるなんて辛いですよね」
「そうですね……」
「……うん、決めた」
スズメに向き直る。
僕は今、何をしているのか。彼女に、スミ町に今、何ができるのかを考えた。
「僕は……ううん、僕たちは何でも屋です!困った人たちを助けるのが僕たちの仕事!だから……僕が、僕たちがいなくなった人たちを取り戻してみせます!」
「……へ?」
スズメはきょとんとした顔をしたあと、驚いたように目を丸くした。
「い、イルさんたちが町の人たちを見つけてくれるんですか……!」
「はい!任せてください!僕たち強いんで!」
「本当に……?」
「本当に!」
その目は一瞬潤み、そしてひどく嬉しそうに目を細めた。
「ありがとうございます……!私にできることならなんだってします……!ですので、どうか、どうかよろしくお願いします……!」
そして僕の手を取った。ひんやりとした寒さの中に感じたその手は暖かく、そして小さく震えていた。
あぁ、寂しかったんだな。
「……うん!まあ、ウリ……はいいとして、いなくなったもう一人も探さないといけないからね……」
「そ、そうですね……!粗暴な人でもいなくなっちゃったのは心配ですし……!」
あ、ニトの印象ずっとそれなんだ。ごめん。
スズメはとても嬉しそうに微笑んだ後、
「そうそう!ここで飲むホットミルクとっても美味しいんですよ!ここのキッチンを借りて作ってきますのでここで待っててください!」
といって駆け足でテラスから去っていった。
「……力になれるといいな」
スミ町を見下ろす。その町には人の気配が何一つしない。確かにこんなところで一人でいたら、それはとても寂しいだろうな。
彼女は一体どれくらい、この広い町で一人でいたのだろうか。
そんな彼女の寂しさを、僕はどれだけ助けることができるだろうか。
「いやはや。今宵は月が綺麗ですね」
その声に意識が引っ張られる。
静かすぎるこの空間からか、いやでも鼓動がかしましくなっていると音で感じる。
落ち着いた、しかしこちらを嘲笑うかのような男性の声がした。その声はウリの声でもニトの声でもない。
「おっと、この世界には月が存在しないんでした。失敬失敬」
冷や汗が止まらない。
警戒と恐怖と好奇心。その人物を確認するためにおもむろに振り返る。
「こんばんは。今宵は星が綺麗ですね」
振り返ったその刹那、僕の体は言うことを聞かぬまま空中にはりつけにされたかのように動かなくなった。
「──ですよね?"イル"さん?」
二つの足音だけがこだまする町中に手を引かれたどり着いた先、この町の最奥にある建物の前でスズメは止まる。
その建物はコテージのような外観をしており、最上階はひらけていた。
「ここ、旅人さんが来た時におすすめするコテージなんですよね。まあ、最近はめっきり来なくなったんですが」
と、スズメは苦笑いをする。
「見せたいものはこの上です!」と再び僕の手を引いて中へと入っていく。
コテージの中は小綺麗で、使用感のある木製の家具がいくつか置かれていた。シックな作りの空間を通り抜けていく。
階段に足をつけ、上り続ければ終点である扉の前で立ち止まった。
「とっておきの場所はこの先にあります!」
と、やや自慢げにスズメは扉を開けるように催促してくる。鼓動が早まるのを感じながらその木の扉を開けた。
……はじめに感じるのは頬を撫でる温度。
その冷たさと相反した暖かさが目に飛び込んできた。
広いテラスに足を踏み入れた先に見えたのは、満点の星空と仄かに光る町並みだった。
人のいない町はただ、夜に攫われないよう仄かに照らされるのみ。それをきらきらと白く、青く、赤く輝く星が見下ろしていた。
その異常なまでの静けさが目に映る情景を一層輝かせる。
「綺麗……」
思わず口から言葉がこぼれる。それくらい綺麗だったのだ。
一歩ずつ歩みを進め、ひんやりとした感触の手すりに手を滑らせる。
冬の終わりを告げ、春の色を見せ始める頃合いのような……どこか寂しさを感じ、しかしどこか暖かさを感じる。そんな国が見せる静かな景色に心を奪われていた。
「綺麗でしょう!ここからの景色結構人気なんですよね!」
「すごい……星が綺麗……町も綺麗……すっごい綺麗……」
「でしょでしょ!」
うまく言葉を紡げずに単純な言葉しか口に出ないのが恥ずかしい。スズメは自慢げに胸を張る。
あぁ……こんな景色僕だけみていいんだろうか……多分ウリは見たことあるんだろうけど……。ああ、ごめんねニト、いい景色先に見ちゃった。
「夜ってね、まあ暗いし不気味だし何が出るかわからない恐ろしさがあるんだけど、心地よい静けさと明るさがなんだか安心するんですよねぇ」
スズメは、町を見下ろす。
「だから私、この町が好きなんです。安らぎのあるこの町が、国が……大好きです」
そして微笑んだ。
それは愛しさと寂しさが入り混じっているような……そう感じる笑みだった。
「……そうなんですね。だったら、余計にこの町から人がいなくなるなんて辛いですよね」
「そうですね……」
「……うん、決めた」
スズメに向き直る。
僕は今、何をしているのか。彼女に、スミ町に今、何ができるのかを考えた。
「僕は……ううん、僕たちは何でも屋です!困った人たちを助けるのが僕たちの仕事!だから……僕が、僕たちがいなくなった人たちを取り戻してみせます!」
「……へ?」
スズメはきょとんとした顔をしたあと、驚いたように目を丸くした。
「い、イルさんたちが町の人たちを見つけてくれるんですか……!」
「はい!任せてください!僕たち強いんで!」
「本当に……?」
「本当に!」
その目は一瞬潤み、そしてひどく嬉しそうに目を細めた。
「ありがとうございます……!私にできることならなんだってします……!ですので、どうか、どうかよろしくお願いします……!」
そして僕の手を取った。ひんやりとした寒さの中に感じたその手は暖かく、そして小さく震えていた。
あぁ、寂しかったんだな。
「……うん!まあ、ウリ……はいいとして、いなくなったもう一人も探さないといけないからね……」
「そ、そうですね……!粗暴な人でもいなくなっちゃったのは心配ですし……!」
あ、ニトの印象ずっとそれなんだ。ごめん。
スズメはとても嬉しそうに微笑んだ後、
「そうそう!ここで飲むホットミルクとっても美味しいんですよ!ここのキッチンを借りて作ってきますのでここで待っててください!」
といって駆け足でテラスから去っていった。
「……力になれるといいな」
スミ町を見下ろす。その町には人の気配が何一つしない。確かにこんなところで一人でいたら、それはとても寂しいだろうな。
彼女は一体どれくらい、この広い町で一人でいたのだろうか。
そんな彼女の寂しさを、僕はどれだけ助けることができるだろうか。
「いやはや。今宵は月が綺麗ですね」
その声に意識が引っ張られる。
静かすぎるこの空間からか、いやでも鼓動がかしましくなっていると音で感じる。
落ち着いた、しかしこちらを嘲笑うかのような男性の声がした。その声はウリの声でもニトの声でもない。
「おっと、この世界には月が存在しないんでした。失敬失敬」
冷や汗が止まらない。
警戒と恐怖と好奇心。その人物を確認するためにおもむろに振り返る。
「こんばんは。今宵は星が綺麗ですね」
振り返ったその刹那、僕の体は言うことを聞かぬまま空中にはりつけにされたかのように動かなくなった。
「──ですよね?"イル"さん?」