一幕『春風の帳』
触れるよりも先にその人はこちらを振り向いた。
暗い色のローブを身にまとい、フードを深々と被っている。背格好からみて僕と同じくらいの子供だろうか。フードから覗かせる顔には、何も書かれていない白い面がつけられていた。
ゾッと背筋が凍る。その子供がひどく異質に感じた。
それと同時にはらわたが煮え切るほどの憎悪も込み上がる。
何故だろうか。その子供を見ると……"絶対に許さない"と強く思ってしまう。
「……っ」
何かを言わなきゃ行けないのに言葉が喉をつっかえて出てこない。憎悪を抑えることに必死になってその場から動くことができない。子供を無視して街へ向かったほうがいいのに、体が全くいうことを聞かない。
子供はただじっとこちらをみていただけかと思うと、こちらに指を差してくる。そしてその指を空を切るように左に向けた。
刹那、先ほどの化け物に飛ばされた時と同じ圧を感じたかと思えば僕の体は左に大きく飛ばされる。草花がクッションになって大きな怪我はないが、先ほど受けた痛みと合わせて余計に体が悲鳴を上げた。
何事かと子供の方を見れば思わぬ光景が広がっていた。
先ほどの位置よりも幾分か後方で子供が佇んでいる。見据える先は先ほどまで僕がいた位置。少し前に襲いかかってきたやつとよく似た化け物がそこにいた。
「■■■」
化け物の歪な口が動く。何かを発した、気がした。子供はこちらを一瞥すると化け物に向き直り、先ほどと同じように指を化け物からこちらに向け、そしてまた正面に指を振るった。
体がまた飛ばされる感覚がすると感じた頃にはまた地面に体を打ち付けていた。元いた位置を見るとそこには先ほどまで子供の前にいた化け物がいる。化け物はこちらを見据えている。気づけば子供はいなくなっていた。
押し付けられた、のだろうか。急ぐあまり全部置いてきてしまった。僕にはこいつを倒す術がない。
だが……なるべくこいつを街に連れて行かないようにすることだけはできる。なるべく化け物を引き付けながら森の方へと戻ろう。
化け物はこちらに鉤爪を振りかざしてくる。もう何度もみた攻撃だ。隙を見て回避し、森の方へと駆け出していく。
「こ、こっちだ!」
体の節々がとても痛いが、不思議と身体が軽く感じる。
化け物は僕に殺意の目を向け、うめき声をあげる。時間稼ぎくらいはできる。
あの二人が来るまで、何とかあいつの気を引かなくては。
暗い色のローブを身にまとい、フードを深々と被っている。背格好からみて僕と同じくらいの子供だろうか。フードから覗かせる顔には、何も書かれていない白い面がつけられていた。
ゾッと背筋が凍る。その子供がひどく異質に感じた。
それと同時にはらわたが煮え切るほどの憎悪も込み上がる。
何故だろうか。その子供を見ると……"絶対に許さない"と強く思ってしまう。
「……っ」
何かを言わなきゃ行けないのに言葉が喉をつっかえて出てこない。憎悪を抑えることに必死になってその場から動くことができない。子供を無視して街へ向かったほうがいいのに、体が全くいうことを聞かない。
子供はただじっとこちらをみていただけかと思うと、こちらに指を差してくる。そしてその指を空を切るように左に向けた。
刹那、先ほどの化け物に飛ばされた時と同じ圧を感じたかと思えば僕の体は左に大きく飛ばされる。草花がクッションになって大きな怪我はないが、先ほど受けた痛みと合わせて余計に体が悲鳴を上げた。
何事かと子供の方を見れば思わぬ光景が広がっていた。
先ほどの位置よりも幾分か後方で子供が佇んでいる。見据える先は先ほどまで僕がいた位置。少し前に襲いかかってきたやつとよく似た化け物がそこにいた。
「■■■」
化け物の歪な口が動く。何かを発した、気がした。子供はこちらを一瞥すると化け物に向き直り、先ほどと同じように指を化け物からこちらに向け、そしてまた正面に指を振るった。
体がまた飛ばされる感覚がすると感じた頃にはまた地面に体を打ち付けていた。元いた位置を見るとそこには先ほどまで子供の前にいた化け物がいる。化け物はこちらを見据えている。気づけば子供はいなくなっていた。
押し付けられた、のだろうか。急ぐあまり全部置いてきてしまった。僕にはこいつを倒す術がない。
だが……なるべくこいつを街に連れて行かないようにすることだけはできる。なるべく化け物を引き付けながら森の方へと戻ろう。
化け物はこちらに鉤爪を振りかざしてくる。もう何度もみた攻撃だ。隙を見て回避し、森の方へと駆け出していく。
「こ、こっちだ!」
体の節々がとても痛いが、不思議と身体が軽く感じる。
化け物は僕に殺意の目を向け、うめき声をあげる。時間稼ぎくらいはできる。
あの二人が来るまで、何とかあいつの気を引かなくては。