幽世.live
「やあやあウリくん久しぶりだねー! 見ないうちに大きくなった? いや天使だから変わんねえか! はは!」
「……」
1ノ国・ウノハナ。用事を済ませるためにこの地へ足を踏み入れるや否や、やかましい歓迎の声が出迎えてくる。
「カガチ」
「ん? 何?」
「うるさい」
「えー!? うるさいだって!?」
さっきから声がでかいこの男……カガチは、にやりと笑うと「『今日も元気いっぱいだね』っていいたいんだね!」と、なんとも都合のいい解釈を返してきた。
こんなふざけた中年のおっさんがかつて一国を取り戻して王に君臨していたのだから、世の中何が起きているのかさっぱりわからない。
「それよりも渡したいものがあるんだが」
「ははあ、あのウリくんが俺にプレゼントだって?」
「気が変わった。帰る」
「あー冗談だよ冗談! 詳しく話を聞きたいから研究室にいこうか!」
慌てて引き留めるカガチに腕を掴まれ、無理やり研究棟へ連れていかれる。
……こんな調子のおっさんが国王の座を捨てて日々研究に明け暮れているのだから、世の中何が起きるのかさっぱりわからない。
転移装置で研究棟へ向かい、白い扉をくぐると小さな研究室に入る。カガチは椅子に深く腰かけると「座りな」と言わんばかりに椅子を指さす。言われるがままに椅子へ座った。
「で、どうだった? 薬の効果」
「……少しだけだが効果はあった」
「おお、そうか! いやーこれで一歩前進できたわけだ」
「……これがその時に採取したものだ」
オレは先日回収した小瓶をカガチに渡す。カガチは黒い粘液の入ったそれをまじまじと見つめると、一言感謝をして傍らに置かれた解析装置に手を付け始めた。
彼が行っている研究は、曰く罪人を元に戻す薬の開発らしい。1ノ国に移り住んでからかれこれ四年の月日しか流れていないが、逆に言えば四年の月日をこの研究に捧げていることになる。そのおかげか試作品は数分の効果は望めた。それは彼に才能があるからか、それともそれほどまでに開発に執着をしているのか。……おそらく、その両方なのだろう。
カガチが何故そこまでして元に戻そうとしているのかは、なんとなく予想がつく。おそらく、あの件のせいだ。
「……カガチ」
「ん? 何?」
「お前はこれをいつまで続けるつもりなんだ?」
カガチは手を止めて小瓶を見つめる。しばらくの沈黙の後、また手を動かし始めた。
「俺がこの世界からいなくなるまでかなあ」
「未完成のまま終わるかもしれないことを……よくやれるよな」
「はは、そうだねー」
こちらに一瞥もせず、手を動かし続ける。ふと、机上に置かれたいくつもの研究資料に目を移すと、乱雑な文字と二重線で黒く染まっていた。
「俺がいなくなるのなんていつになるかわからないからねー。 数年後、数か月後……もしかすると明日かもしれない。 ま、でもやれるだけやっておきたいんだよね」
「……」
「それにこうして手伝ってくれる子もいるからね! いやーウリくんには奪還の件からずっと世話になりっぱなしだよー!」
「手伝わされてるの間違いだろ」
「はは! そんな照れなくてもいいって! これからも頼りにしてるよ!」
──奪還の件。罪人にさえならなければもっと違った形で終わっていたかもしれない、あの6ノ国の件。あのことが彼の中に悔恨として残っているのだろう。別にこいつが悪いことをしたわけではないのだが。
「……よーし、できた。 あとは待ちの時間かなー」
大きく伸びをして、カガチはようやくこちらを向いた。
「ウリくんが持ってきてくれた罪人の粘液、ちゃんと研究に役立てるからねー。 いやー助かったよ」
「そうか」
「それで、一つ聞きたいんだけど」
珍しく言い淀みながら目を泳がせる。
「……その罪人、どうだった? 何か言ってた?」
「……『元に戻りたくない』と」
「そっかあ……そりゃ悪いことをしたなあ」
と、椅子にもたれながら頭をかいた。カガチは複雑な表情を一瞬見せつつ、手元の紙に乱雑な文字を綴る。
「その人も無事に元に戻せたらいいんだがな。 罪人問題は難しいよー」
「……そうだな」
「……ま、それも早いうちに解決できるように寝る間も惜しんで頑張るしかないんだけどさ!」
「いや……家には帰れ。嫁を一人にさせるなよ」
「……返す言葉もないね」
図星をつかれたのかカガチは気まずそうに目をそらしながら、わざとらしく咳ばらいをした。
「ま、また試作品ができたら連絡するよ!」
「はぁ」
「今日はありがとうねー、次会った時はお土産も用意してきてね。 ああ、あれがいいなー、オリベの温泉饅頭! 久しぶりに食べたいし! 二箱くらい買ってきてほしいなー! 楽しみにしてるね!」
……厚かましい要望に応えないまま扉に手をかける。最後までカガチは笑顔でこちらに手を振っていた。
「……」
1ノ国・ウノハナ。用事を済ませるためにこの地へ足を踏み入れるや否や、やかましい歓迎の声が出迎えてくる。
「カガチ」
「ん? 何?」
「うるさい」
「えー!? うるさいだって!?」
さっきから声がでかいこの男……カガチは、にやりと笑うと「『今日も元気いっぱいだね』っていいたいんだね!」と、なんとも都合のいい解釈を返してきた。
こんなふざけた中年のおっさんがかつて一国を取り戻して王に君臨していたのだから、世の中何が起きているのかさっぱりわからない。
「それよりも渡したいものがあるんだが」
「ははあ、あのウリくんが俺にプレゼントだって?」
「気が変わった。帰る」
「あー冗談だよ冗談! 詳しく話を聞きたいから研究室にいこうか!」
慌てて引き留めるカガチに腕を掴まれ、無理やり研究棟へ連れていかれる。
……こんな調子のおっさんが国王の座を捨てて日々研究に明け暮れているのだから、世の中何が起きるのかさっぱりわからない。
転移装置で研究棟へ向かい、白い扉をくぐると小さな研究室に入る。カガチは椅子に深く腰かけると「座りな」と言わんばかりに椅子を指さす。言われるがままに椅子へ座った。
「で、どうだった? 薬の効果」
「……少しだけだが効果はあった」
「おお、そうか! いやーこれで一歩前進できたわけだ」
「……これがその時に採取したものだ」
オレは先日回収した小瓶をカガチに渡す。カガチは黒い粘液の入ったそれをまじまじと見つめると、一言感謝をして傍らに置かれた解析装置に手を付け始めた。
彼が行っている研究は、曰く罪人を元に戻す薬の開発らしい。1ノ国に移り住んでからかれこれ四年の月日しか流れていないが、逆に言えば四年の月日をこの研究に捧げていることになる。そのおかげか試作品は数分の効果は望めた。それは彼に才能があるからか、それともそれほどまでに開発に執着をしているのか。……おそらく、その両方なのだろう。
カガチが何故そこまでして元に戻そうとしているのかは、なんとなく予想がつく。おそらく、あの件のせいだ。
「……カガチ」
「ん? 何?」
「お前はこれをいつまで続けるつもりなんだ?」
カガチは手を止めて小瓶を見つめる。しばらくの沈黙の後、また手を動かし始めた。
「俺がこの世界からいなくなるまでかなあ」
「未完成のまま終わるかもしれないことを……よくやれるよな」
「はは、そうだねー」
こちらに一瞥もせず、手を動かし続ける。ふと、机上に置かれたいくつもの研究資料に目を移すと、乱雑な文字と二重線で黒く染まっていた。
「俺がいなくなるのなんていつになるかわからないからねー。 数年後、数か月後……もしかすると明日かもしれない。 ま、でもやれるだけやっておきたいんだよね」
「……」
「それにこうして手伝ってくれる子もいるからね! いやーウリくんには奪還の件からずっと世話になりっぱなしだよー!」
「手伝わされてるの間違いだろ」
「はは! そんな照れなくてもいいって! これからも頼りにしてるよ!」
──奪還の件。罪人にさえならなければもっと違った形で終わっていたかもしれない、あの6ノ国の件。あのことが彼の中に悔恨として残っているのだろう。別にこいつが悪いことをしたわけではないのだが。
「……よーし、できた。 あとは待ちの時間かなー」
大きく伸びをして、カガチはようやくこちらを向いた。
「ウリくんが持ってきてくれた罪人の粘液、ちゃんと研究に役立てるからねー。 いやー助かったよ」
「そうか」
「それで、一つ聞きたいんだけど」
珍しく言い淀みながら目を泳がせる。
「……その罪人、どうだった? 何か言ってた?」
「……『元に戻りたくない』と」
「そっかあ……そりゃ悪いことをしたなあ」
と、椅子にもたれながら頭をかいた。カガチは複雑な表情を一瞬見せつつ、手元の紙に乱雑な文字を綴る。
「その人も無事に元に戻せたらいいんだがな。 罪人問題は難しいよー」
「……そうだな」
「……ま、それも早いうちに解決できるように寝る間も惜しんで頑張るしかないんだけどさ!」
「いや……家には帰れ。嫁を一人にさせるなよ」
「……返す言葉もないね」
図星をつかれたのかカガチは気まずそうに目をそらしながら、わざとらしく咳ばらいをした。
「ま、また試作品ができたら連絡するよ!」
「はぁ」
「今日はありがとうねー、次会った時はお土産も用意してきてね。 ああ、あれがいいなー、オリベの温泉饅頭! 久しぶりに食べたいし! 二箱くらい買ってきてほしいなー! 楽しみにしてるね!」
……厚かましい要望に応えないまま扉に手をかける。最後までカガチは笑顔でこちらに手を振っていた。