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幽世.live

「みんなお久すぎ〜!全員集合とか奇跡すぎてウケる〜」
「ラファ殿が無理矢理呼びつけたんでしょ……」

8ノ国、オウニ地区のとある飲食店。そこにはオレを含めて13人の珍妙な連中が募っていた。
──幽世の国々を管理する者。通称"天使"と呼ばれる存在。普段は自分達のやりたいことをやっている自由人のため会合も滅多に行われない。
今回も「気分だから」という理由でラファが全員を招集させたのだ。

「いや〜だってなんとなく行ける気がしたからさ〜!天使大集合ってね!たまにはいいじゃん?」
「全然よくないでち」
「えっと、その……私、まだ仕事が……」
「吾輩も所用があるんだが」
「眠いし帰っていい?」
「帰っちゃダメだよ〜!とりまご飯食べちゃお!はい乾杯〜!」
「は〜い!かんぱ〜い」
「……」
「……え、えぇ?何この空気?」

……とまあ、驚くほどに協調性のない連中なのだ。加えて大半の天使は食事をしないためこの食卓に置かれた豪勢な食事も一向に減る様子がない。
流石にこの店のヒトが可哀想なので食べることにした。高そうな味がする。

「はいは〜い!じゃあ久しぶりに全員集まったところだし〜!現在のお国事情とか聞きたいな〜」
「それ聞いて何になるの?」
「え〜!だって気になるじゃん!なんかやらかしてないかとかさ〜!」
「……ちなみに、8ノ国はどうなんだ?」
「え?普通だけど」
「……」

不毛な会話が続く予感しかしないし、オレは別に国の事情とかはどうでもいいので聞き流すことにする。それよりも珍しく天使が全員いるし、改めてこいつらについて確認しようと思う。

まず、さっきからよく喋っている8ノ国の管理人"ラファ"。今回みたいに会合を主催しては度々天使を呼びつけている。とは言っても、仕事だ研究だなんだと言って参加しない連中が大半だからいつもはこれの半分ほどしかいないのだが。

「まあまあ!そんなこたいいじゃないか!とりあえず酒だ酒!ほらせっかくだからガブも飲もうぜ〜!」
「え、いや私は……ゔ」
「お〜!ガブちー!一気でいっちゃいな!!」

酒を飲ませている方は2ノ国の管理人"ラジ"。常に酒に溺れているような男だ。酔い潰れているせいで滅多に会合に現れないが、今回は珍しく定刻通りにきたみたいだ。
酒を飲まされている方は9ノ国の管理人"ガブ"。死人たちを導く仕事をしており、常に仕事に追われている。あの様子を見るに仕事中にラファに連れてこられたのだろう。
あの二人はかなり昔から幽世にいるらしく、おそらく仲がいい……のかもしれない。ただでさえ死にそうな顔をしているガブの顔はさらに青くなったが、ラジはヘラヘラと笑ってガブの背中を叩いている。追撃するなよ。

「ふあぁ……そういえば、アルカはお酒飲むの?」
「あ……あんなの見て飲みたいと思うわけがない、馬鹿になってしまうだろ。僕はこの水とご飯だけで十分なの」
「あ、そういえば。アルカさんがさっきから飲んでるそれ、実はお酒ですよ」
「……んっ!?は!?え!?」
「ほら早く吐き出さないとバカになっちゃますよ〜!いや元からバカだから変わらないですね!!あはは!!」
「はぁ〜!?何!?ちょっと!?ダル!?」

さっきからそこで眠そうにしているやつが元6ノ国の管理人"ミカ"。昔は結構働くやつだったらしいが、急にああなってしまってからは管理人としての仕事を放棄したそうだ。現在では8ノ国にてラファにこき使われている。
そんなミカはやりとりを見ていたオレの元へ来て「ダルがいったことだけど、あれ嘘だよ」といらない情報を耳打ちしてくる。

騙されたことにも気づかず掴みかかっている方は現6ノ国の管理人"アルカ"。普段は屋敷から出ることがない上常に監視の者がいるのだが、今回は一人でこの場にいるようだ。一人で来ている理由に検討はついているが……まあ、それはどうでもいい。
掴みかかられてもなおヘラヘラとしている方は10ノ国の管理人"ダル"。良くも悪くも子供っぽい性格に反して見た目はかなり大きい。普段は10ノ国に居付かず、8ノ国にいることが多い。その間は魔法を利用して管理しているそうだ。

「……にしても珍しいな、あの二人が会合の場に来てるなんて」
「アルカに至ってははじめてだもんねぇ。まあ、後で保護者が迎えにくるでしょ」
「……それで思い出したが、あっちもあっちで何やってんだろうな」

そう視線を移した先には、三人の天使が固まっていた。

「見て、メタ。ツインテのカマ」
「うわ」
「え〜?何その反応!もしかして可愛くなかった?」
「絶望的に」
「そっか〜……じゃあメタも手伝って!」
「……仕方ない、吾輩が直々に手を貸してやろう」
「おい、キミたち。遊ぶ前に飯を食え」

髪で遊んでいる方は現5ノ国の管理人"ロア"。彼女もまた会合にははじめてくる。他の天使たちとは生い立ちが違っているが、あれでも一応天使なのだそう(まあ、オレが言えた話ではないが)。曰くじっとしていられないらしくよく外に出ては連れ戻される毎日を送っているそうだ。
遊びに付き合ってやってる感を出している方は1ノ国の管理人"メタ"。言ってることがよくわからないし片方だけよくわからない翼が生えている。よくわからないやつだ。ちなみにロアを造ったのはこいつらしい。なんのために造ったのかも教えるつもりはないらしく、まあ……とにかくよくわからないことだけがわかる。
そして二人に遊ばれている方は元5ノ国の管理人"カマ"。良くも悪くも真面目なやつだが、最終的には武力行使に出るやつだ。要するにアホ。そのせいで管理人の権限を剥奪されたため最近では武力行使に出ないよう頑張っているそうだ。この状況、多分一昔前なら手が出てたかもしれない。

「保護者で遊んでるねぇ」
「ロアもロアで来るのははじめてなんだっけか。普段はカマが来てるからな」
「メタもこない子なのに今回は来てるし……全員連れてくるなんてラファはすごいなぁ」
「……まあ、帰ろうとはしてたけどな」

多分メタが来た理由はロアがいるからだろうな……。それ以外のやつらには興味なさそうだし。
だが興味がない、という方面で行くならおそらくあいつが一番だろう。

「今日、みなさんが来るって聞いてお菓子作ってきたの」
「本当?こいまた美味そうなお菓子だべ」
「えへへ〜、ハニちゃんも食べる?」
「そらもぢろん!へば、くね!」

お菓子を持ってきた方は4ノ国の管理人"ザド"。この天使たちの中ではかなりまともな部類ではあるが、悪魔に対しては誰よりも殺意が高い。普段は温厚だがその分一番怒らせてはいけない人だ。
お菓子を食べている方は7ノ国の管理人"ハニ"。誰よりも他の天使に興味を持ち、誰よりも他の天使に興味がないと思う。こいつはザドくらいしか見えていないと思う。こいつもあんまり怒らせてはいけないと思う。
あそこだけ違う空間が広がっている気がする。絶対に近づけないし近づきたくない。というか飲食店にお菓子を持ち込むなよ。

「あの二人、普段も会合には来てるけどしばらくしたらずっとあんな感じになるよ」
「へー……嫌だな」
「ねー……どこもかしこもどんちゃん騒ぎで眠れやしないや。いっそ静か組なミカたち三人で抜け出しちゃう?」
「あたちを巻き込むな」

声がした方を見やればいつの間にフキが隣に来ていた。小さすぎて気づかなかった。
この会合に参加している"フキ"も天使と呼ばれる存在であり、彼女は3ノ国の管理人である。見た目通りの性格と喋り方で、子供扱いされるとキレる。見た目のせいか国民からはよく舐められている。

「えー……だって、他のところに馴染めなくてこっち来たんでしょ?」
「いやまそうでちけど」
「じゃあいいじゃん。馴染めないもの同士、ミカたちはこっそり脱走しよう」
「なんか腹たちゅな……」
「仕方ない、事実だし。何よりこんなところにいたら気が狂いそうだ……」

オレたち三人は目配せをして目を瞑る。転移をしてこっそり消えようという算段だ。
意識を集中して場所のイメージを浮かび上がらせ、霊力を──。

「ちょっとミカち!?逃げようたってそうはいかないからね!?」
「ぐあっ」
「ほーらまだまだ飲むよ〜!ミカちも飲むの!」
「や、やだぁ……ミカは飲みたくない……」

真っ先にミカが捕捉されたようだ。焦りが生じたせいで意識が途切れた。もう一度集中させ──。

「あ!フキ!今暇でしょ!せっかく会えたんだもん!可愛くさせて〜!」
「ぎゃっ!」
「やだ〜!フキの髪サラサラしてる〜!これは可愛くさせがいがあるよ!任せて!ワタシそういうの自信あるから!」
「そういうのは!!いいから!!いりゃないから!!」

続けてフキも捕まったらしい。なんだか嫌な予感がする。
その瞬間、横から強い衝撃が押し寄せて思わず目を開いてしまった。

「ウリ〜……なんで帰ろうとしてるの〜……私を置いていなくならないでよ〜……」
「やめろ!ひっつくな!」
「ねえダル〜……ウリが帰ろうとしてるよ〜……ひっく……」

メソメソと泣きながら帰らせまいとひっついてきたのはアルカだった。というかこれ……酔ってないか?
困惑した顔でダルに目を向ければ、ニコニコとした顔でこちらを見ていた。

「おいダル……これ……どうにかしろよ……」
「あはは、思い込みの力ヤバすぎ」
「嘘だろ……」

確かに酒の匂いを感じないから完全に思い込みでこうなっているのだろう。どうなってるんだこいつの頭。

「ウリもお酒飲もうよ〜……楽しいよ〜……」
「そんな泣きながら言われても説得力ねぇよ。そもそもお前酒飲んでねぇだろ」
「飲んでるよ〜!だってダルがそう言ってたもん!ねぇ!」
「ボクに振らないでください」

「でもそうだな……」と考え込んだダルは、次に悪い顔で何かを閃いて酒瓶を手に取った。
嫌な予感がしてアルカを引き剥がそうとする間にダルに肩を掴まれる。

「野良猫さんだけ飲んでないのも不公平ですもんね〜、飲んじゃいましょっか!」
「そうだそうだ!飲んじゃお〜!」
「やめっ……」
「野良猫さんは何杯で酔い潰れますかね〜?」

助けを求めるように周囲を見渡しても、どう足掻いても自分達の空間を作っている連中しかいない。フキもミカも自分のことで手一杯でそれどころじゃないのだろう。
なす術もなくただこの悪ガキどもに身を任せることしかできなくなった。

「今日も皆さんは元気いっぱいだね〜」
「んだね〜」

良くも悪くも、天使は昔から何も変わらない。改めて確認した結果はそう結論付けられた。
宴もたけなわ、夜が更けていく。

……

「……で、なんですかこの地獄絵図は」
「知らねぇ……」

気がつけば室内は静かになっていた。一部の連中は既にいなくなっている。
残りの連中……ガブやミカなどの被害者は完全に気絶している様子だった。

「あー……ご愁傷様です。じゃ、私は回収しにきただけなんであとはごゆっくりどうぞ」
「……」

かくいうオレもとっくに疲れ切っていたため、起き上がることすらできないままでいた。
もう会合にはいかないと強く誓いながら、襖が閉まるのをぼんやりと眺めていた。

……そうして朝を迎えていくことになるのだった。
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