序章〜子供時代編
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眠い。猛烈に眠い。
深夜残業から帰宅する道すがら、私は襲いくる睡魔と闘いながら必死に運転していた。
ちなみに13連勤目である。ブラック企業も甚だしい。
(早く…一刻も早く帰りたい…)
持って行かれそうになる意識を振るい起こしながらアクセルを踏む。このまま家に帰れば久しぶりの休日なのだ。布団が私を待っている。
車のライトだけが真っ暗い夜道を煌々と照らす。
視界が悪い。山道の雨は最悪である。
雨の音とワイパーの音だけが響く車内。眠気を誘うには十分だった。
私が住んでいるところは山間の小さな集落。ようするに田舎だ。
街灯も少なければ夜遅くまで明かりをつけている家も極わずか。
片道2時間もかけて通勤している。もういい加減嫌になってきた。
(どうせ実家暮らしなんだし…家継いじゃおうかな…)
晴れの日には車窓からうちの家族が育てている果樹の木々が見える筈だが、生憎と暗くて何も見えない。
別に農家は嫌ではないけれど、何となく社会経験のために会社に就職した。
物騒だからと、一人暮らしを父は許してくれなくて。
もういい大人なんだから一人暮らしをさせてほしい。
敷金礼金も大丈夫そうな手頃なアパートを先日チラシで見つけてしまい、一人暮らしの熱は高まるばかり。
こんな夜中に2時間もかけて車で帰る方が危ない気がする。
(ああ、もうやめやめ。不毛な一人会話は!…やっぱり疲れてるんだわ私…)
この通勤時間を嫌にさせて農家を継いで貰おう。なんてまさか考えているわけじゃないよねお父さん…。
朦朧とそんな事を考えながら眠気覚ましにと控えめな音量でラジオをつければ『今宵は七夕ですね。ラジオの前の君はどんな願い事をするのかな…?』とやたら眠気を誘うようなダンディな声がスピーカーから聞こえてくる。
「もう、七夕…?この間まで5月だったわよ…月の流れって早いわね…」
毎日の忙しない日々に月日の感覚はどんどんなくなっていく。
休日も、近頃は疲れ切ってしまいどこにも行く気にならず、友達とも時間が合わない。彼氏なんてもってのほか。
ささのは さらさら のきばにゆれる
おほしさま きらきら …
思わず反射的に歌ってしまった。
狭い車内に私の歌だけがこだまする。
おほしさま きらきら そらからみてる
外は土砂降りの雨で、おほしさまが空から私を見ているとは到底思えない。
丁度台風が接近中の日本列島。
織姫と彦星が会えるのは絶望的で、今日の二人は泣き寝入りだろう。
「願い事かー…そうだなあ…今よりもっとゆっくりとのびのびできる生活がしたいな」
気になるカフェに行ったり、好きな材料を買ってお菓子を作ったり。
行ってみたい美術館もあるし…、ショッピングするのもいい。
夏だし海で泳ぐのも…、思いきって旅行に行くのもいいなあ。
「…どこか遠いところ、にっ!!??」
一瞬の、出来事だった。
正直何が起こったのか分からなかった。何の前触れもなく突然目の前に現れた巨大な塊。
連日の雨による落石だと、理解した時には遅かった。急ブレーキをかけた車はスリップし、そのままガードレールもろとも崖下10mへ向かって突っ切ってしまった。
凄まじい音と衝撃が体を揺らす。
どうしようもできない。
逃げることも、止めることも、できない。咄嗟の事すぎて、悲鳴すらもあがらない。
シートベルトが勢いよく私の体を支えようと締め付ける。エアバックは飛び出てきたけど、これはちょっと無理では。
地面にぶつかって勢いよく跳ねる。一瞬意識が飛んだ。
ガードレールって意外と耐久性ないなあ。車ごと吹っ飛んだんですけど。どうなってんの?
なんて、
(………なんだこれ)
割れた窓から無数の雨が入ってくる。自分がどうなっているかわからない。
温度差であがる煙。カラカラと回っているタイヤ。
機能が停止したエンジン。
暗くてよく見えないけど、この暖かいのは自分の血かしら?
雨で湿った草木のむせ返るような臭いに混じってガソリンの臭いがする。雨が降ってるから引火とかは、ないと思う。
(…すごく、痛い…)
じわじわと、遅れて痛みがやってくる。いっそ、即死だったら良かったと思う程の激痛。
このまま雨に打たれながら山の中で一人死ぬんだろうか。
意識が途切れるその時まで、苦しんで死ぬんだろうか。
痛い。苦しい。冷たい。助けて。
怖い。嫌だ。寒い。帰りたい。
お母さん…お父さ、ん…誰か…
だれでも、いいから
わたし しにたくない
薄れ行く意識の中で、何故だろうか。
白く光る星を見た気がした。
深夜残業から帰宅する道すがら、私は襲いくる睡魔と闘いながら必死に運転していた。
ちなみに13連勤目である。ブラック企業も甚だしい。
(早く…一刻も早く帰りたい…)
持って行かれそうになる意識を振るい起こしながらアクセルを踏む。このまま家に帰れば久しぶりの休日なのだ。布団が私を待っている。
車のライトだけが真っ暗い夜道を煌々と照らす。
視界が悪い。山道の雨は最悪である。
雨の音とワイパーの音だけが響く車内。眠気を誘うには十分だった。
私が住んでいるところは山間の小さな集落。ようするに田舎だ。
街灯も少なければ夜遅くまで明かりをつけている家も極わずか。
片道2時間もかけて通勤している。もういい加減嫌になってきた。
(どうせ実家暮らしなんだし…家継いじゃおうかな…)
晴れの日には車窓からうちの家族が育てている果樹の木々が見える筈だが、生憎と暗くて何も見えない。
別に農家は嫌ではないけれど、何となく社会経験のために会社に就職した。
物騒だからと、一人暮らしを父は許してくれなくて。
もういい大人なんだから一人暮らしをさせてほしい。
敷金礼金も大丈夫そうな手頃なアパートを先日チラシで見つけてしまい、一人暮らしの熱は高まるばかり。
こんな夜中に2時間もかけて車で帰る方が危ない気がする。
(ああ、もうやめやめ。不毛な一人会話は!…やっぱり疲れてるんだわ私…)
この通勤時間を嫌にさせて農家を継いで貰おう。なんてまさか考えているわけじゃないよねお父さん…。
朦朧とそんな事を考えながら眠気覚ましにと控えめな音量でラジオをつければ『今宵は七夕ですね。ラジオの前の君はどんな願い事をするのかな…?』とやたら眠気を誘うようなダンディな声がスピーカーから聞こえてくる。
「もう、七夕…?この間まで5月だったわよ…月の流れって早いわね…」
毎日の忙しない日々に月日の感覚はどんどんなくなっていく。
休日も、近頃は疲れ切ってしまいどこにも行く気にならず、友達とも時間が合わない。彼氏なんてもってのほか。
ささのは さらさら のきばにゆれる
おほしさま きらきら …
思わず反射的に歌ってしまった。
狭い車内に私の歌だけがこだまする。
おほしさま きらきら そらからみてる
外は土砂降りの雨で、おほしさまが空から私を見ているとは到底思えない。
丁度台風が接近中の日本列島。
織姫と彦星が会えるのは絶望的で、今日の二人は泣き寝入りだろう。
「願い事かー…そうだなあ…今よりもっとゆっくりとのびのびできる生活がしたいな」
気になるカフェに行ったり、好きな材料を買ってお菓子を作ったり。
行ってみたい美術館もあるし…、ショッピングするのもいい。
夏だし海で泳ぐのも…、思いきって旅行に行くのもいいなあ。
「…どこか遠いところ、にっ!!??」
一瞬の、出来事だった。
正直何が起こったのか分からなかった。何の前触れもなく突然目の前に現れた巨大な塊。
連日の雨による落石だと、理解した時には遅かった。急ブレーキをかけた車はスリップし、そのままガードレールもろとも崖下10mへ向かって突っ切ってしまった。
凄まじい音と衝撃が体を揺らす。
どうしようもできない。
逃げることも、止めることも、できない。咄嗟の事すぎて、悲鳴すらもあがらない。
シートベルトが勢いよく私の体を支えようと締め付ける。エアバックは飛び出てきたけど、これはちょっと無理では。
地面にぶつかって勢いよく跳ねる。一瞬意識が飛んだ。
ガードレールって意外と耐久性ないなあ。車ごと吹っ飛んだんですけど。どうなってんの?
なんて、
(………なんだこれ)
割れた窓から無数の雨が入ってくる。自分がどうなっているかわからない。
温度差であがる煙。カラカラと回っているタイヤ。
機能が停止したエンジン。
暗くてよく見えないけど、この暖かいのは自分の血かしら?
雨で湿った草木のむせ返るような臭いに混じってガソリンの臭いがする。雨が降ってるから引火とかは、ないと思う。
(…すごく、痛い…)
じわじわと、遅れて痛みがやってくる。いっそ、即死だったら良かったと思う程の激痛。
このまま雨に打たれながら山の中で一人死ぬんだろうか。
意識が途切れるその時まで、苦しんで死ぬんだろうか。
痛い。苦しい。冷たい。助けて。
怖い。嫌だ。寒い。帰りたい。
お母さん…お父さ、ん…誰か…
だれでも、いいから
わたし しにたくない
薄れ行く意識の中で、何故だろうか。
白く光る星を見た気がした。