お礼小話②

ありがとうございました!
以下、お礼小話です。

※女コウちゃんと男鹿のお話。
女コウちゃん視点。

***


『霞の向こう』





そこに、あいつがいた。

あたしの全てを奪う男。








あたしは一人でやっていく。今までも、これからも。
ルカを守らなくちゃ。
あたしが誰かに頼ったら、ルカは誰を頼って生きるの?
だから背負ってくんだ。ルカの過去も、未来だって。
――そう、思っていたのに。

それなのにあいつは、あたしの背負うべき未来も想いも、
何もかも、全て、奪っていった。





「――なんでコウは、ひとりで全て背負うの」

雨。豪雨に近い雨。掴まれた私の腕。
夕立の中に、あたしとこいつが2人だけ。
お互いの制服はびしょ濡れだ。
DINERを飛び出したあたしを追いかけて来たこの優男に、ルカは恋をしてる。

なあ、ルカはあんたが好きなんだよ。それくらいわかれよ。
あたしじゃなくてルカを、ルカのそばにいてやれ。
ルカは選んだ。あんたを。だから、なぁ、頼むよ。
悪態をつく胸の内に、必死さが滲んで、
懇願も合わさっていく。

雨に打たれて、やさしい感情は流されていく。

「追いかけてくんなバカ」
「ばかじゃない。コウの方がばかだ」
「ふざっけんな、あんたはルカに」
「ルカルカって、コウはルカの何なの?」

「バンビ」とか「かわいい」とかいつも言われてるくせに。
いつものやんわりとしたのと違う、粋がった口調。

そんな風に言わないで。どうせあんたにはわかんないよ。
ルカは私の妹で、これからも見守らなくちゃいけない子なんだ。
ずっと、ルカには、あたししかいなかったのに。
それなのに。
今まで大切にしてたものは少しずつ、
ふわふわしたこの優男に奪われ始めたんだ。
ルカはこいつを求めはじめて、あたしもきっと、こいつを求めてる。
だけどあたしは、「お姉ちゃん」だから、我慢しなくちゃいけない。

恋も未来も夢すらも。
お姉ちゃんだから、かなしいことは背負わなくちゃいけないんだ。

「コウはルカに固執しすぎだよ」
「…あんたに、何がわかんの」
「ルカもコウも、余計なもの背負いすぎてる。お互い、優しすぎるんだよ」

何がわかる。あんたなんかに。
2人で生きてきたあたしら姉妹の、何がわかんの。
ルカの失ったものの重みも、あたしが見てきた影も、
あんたは何も知らないでしょ。

一番いて欲しいときにあんたは、どっか遠くにいたくせに。


「コウとルカと、もう、それぞれの人生を生きて良いんだよ」


雨は、冷たい。なのに、心地いい。
慣れて来たのか、感じる温度は生温かい。

ああ、もどかしい。
なんであんたは変わらないの。残酷なくらい、優しいの。
こんなんじゃ、あたしたちの想いは、きっとずっと、報われない。
好きって気持ちすら言えない、こんなやつに。



「報われてたまるかっ!」



あたしは手を振りほどいてまた走り出す。
雨の中。強く降り続ける雨の中。
あいつはまた追いかけてきた。
ルカの全てを奪った男。
今度はあたしが、きっと根こそぎ奪われる。
想いも我慢も、見えない未来も、
あんたのせいで、私が今まで大切にしていたものが
全て、奪われていく。



奪われているのに、嫌な気がしないのはどうしてなのか。
その理由を考えたら、決して認めたくはないけれど。



ただ、その男は空っぽになったあたしの心に、
生温かい色を落としてくる。
それをあたしは、注がれるまま染まっていく。
再会したあの桜の日から、
春霞にも雨霞にも、惑うあの日のあたしのまま。









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2011.09.22

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