うさぎのかくれんぼ
「うさぎ…みえない」
「…うーん、僕もよくわからないんだよね。子どもの頃、兄さんと一生懸命探したんだけどさ」
優しい黄色に丸く型どった満月は、輪郭がぼやけてやわらかく光る。点描を落としたような薄暗い影が、きっとうさぎの形をしているのだと、子どもの頃はそう信じられた。しかしどの角度から見ても、うさぎの形には到底見えず、兄さんと二人でさじを投げた。
右に首を傾げると、襧豆子は僕の真似をして首を傾げる。二人で満月のうさぎを探した。
「………襧豆子。うさぎ、いる?」
「………わかん、ない」
左に首を傾げると、襧豆子もまた同じように傾げた。臼に向かって、うさぎが杵を振りかざしているように見えなくもない。繋がった影の形は、餅が伸びているように見えなくもない。だが、うさぎの形に思い込もうとするように、無理やり脳が操作されている気もした。
「…やっぱり、よくわかんないや」
首を真っ直ぐに戻すと、やっぱり同じように襧豆子も首を戻して、僕を見て微笑んだ。
「うさぎ…いる、といいね。いいねぇ」
いるわけないと否定しないのは、彼女が幼子な精神だからでない気がした。人間に戻り自我を取り戻しても、きっと襧豆子はそう言ってくれる子なんだろう。そう思わせるような、優しさに満ちた笑顔だった。
「…うーん、僕もよくわからないんだよね。子どもの頃、兄さんと一生懸命探したんだけどさ」
優しい黄色に丸く型どった満月は、輪郭がぼやけてやわらかく光る。点描を落としたような薄暗い影が、きっとうさぎの形をしているのだと、子どもの頃はそう信じられた。しかしどの角度から見ても、うさぎの形には到底見えず、兄さんと二人でさじを投げた。
右に首を傾げると、襧豆子は僕の真似をして首を傾げる。二人で満月のうさぎを探した。
「………襧豆子。うさぎ、いる?」
「………わかん、ない」
左に首を傾げると、襧豆子もまた同じように傾げた。臼に向かって、うさぎが杵を振りかざしているように見えなくもない。繋がった影の形は、餅が伸びているように見えなくもない。だが、うさぎの形に思い込もうとするように、無理やり脳が操作されている気もした。
「…やっぱり、よくわかんないや」
首を真っ直ぐに戻すと、やっぱり同じように襧豆子も首を戻して、僕を見て微笑んだ。
「うさぎ…いる、といいね。いいねぇ」
いるわけないと否定しないのは、彼女が幼子な精神だからでない気がした。人間に戻り自我を取り戻しても、きっと襧豆子はそう言ってくれる子なんだろう。そう思わせるような、優しさに満ちた笑顔だった。