霞柱の色恋事情
*襧豆子side*
午後の稽古が始まる時刻。
気だるい体を引きずり、皆が稽古場に集まってきていた。無一郎くんに手を引かれるまま中へ入ると、ざわっと空気が変わるのを肌で感じ取る。耳目を集めているのは、明らかに場違いな存在である自分だった。
「時透殿。襧豆子さん」
壁に背中を預けていた鉄穴森さんが、片手を上げながら近づいてきた。頭を下げて挨拶すると、隣の無一郎くんが口を開く。
「鉄穴森さん。稽古の間、襧豆子についててくれる?鉄穴森さんが作業に戻るときは、一緒に連れて行ってあげて」
まるで兄が私を紹介するような、そんな響きを見せながら言った。同い年だけど、自分よりも大人びた立ち振る舞い。やはり彼は兄の上官で、鬼殺隊の最高位という立場なのだと実感した。
「はい。襧豆子さん、お言葉に甘えて見学させてもらいましょうか。鍛刀場の方には時透殿の刀もありますので、よろしければそちらも見に来てください」
「ありがとうございます。すみません、お時間取らせてしまって」
「鉄穴森さん、誘ったのは僕だからね」
「ふふふっ。わかっておりますよ」
面の形は変わらないけど、面の下で朗らかな表情の鉄穴森さんが見えた。
「じゃあ、そろそろ始めようか」
揃った隊士たちを目で数えながら、彼が前に歩み出ていく。私と変わらぬ背丈を見送り、ふと近くに立っていた隊士たちと目が合った。真剣な稽古場に、突然部外者が入ってきたのだ。柱である彼が許しても、気に障る隊士がいるかもしれない。
「あの、すみません。お邪魔しています。妨げにならないよう気をつけますので」
慎重に声をかけると、大袈裟に隊服の肩がピンと上がった。
「!あ…いや、どうぞお構いなく!全然気にしくていいから…なあ?」
「そうそう!情けねえ姿見せないようにってむしろ頑張れそうだし…なあ?」
「うんうん!こんな綺麗で可愛い子が見ててくれるなら、俺らも本気が出せるというか…なあ?」
目線が忙しなく動く隊士の呼びかけに、最後返事をした人はいなかった。正確には、一般隊士の中にはいなかった。
午後の稽古が始まる時刻。
気だるい体を引きずり、皆が稽古場に集まってきていた。無一郎くんに手を引かれるまま中へ入ると、ざわっと空気が変わるのを肌で感じ取る。耳目を集めているのは、明らかに場違いな存在である自分だった。
「時透殿。襧豆子さん」
壁に背中を預けていた鉄穴森さんが、片手を上げながら近づいてきた。頭を下げて挨拶すると、隣の無一郎くんが口を開く。
「鉄穴森さん。稽古の間、襧豆子についててくれる?鉄穴森さんが作業に戻るときは、一緒に連れて行ってあげて」
まるで兄が私を紹介するような、そんな響きを見せながら言った。同い年だけど、自分よりも大人びた立ち振る舞い。やはり彼は兄の上官で、鬼殺隊の最高位という立場なのだと実感した。
「はい。襧豆子さん、お言葉に甘えて見学させてもらいましょうか。鍛刀場の方には時透殿の刀もありますので、よろしければそちらも見に来てください」
「ありがとうございます。すみません、お時間取らせてしまって」
「鉄穴森さん、誘ったのは僕だからね」
「ふふふっ。わかっておりますよ」
面の形は変わらないけど、面の下で朗らかな表情の鉄穴森さんが見えた。
「じゃあ、そろそろ始めようか」
揃った隊士たちを目で数えながら、彼が前に歩み出ていく。私と変わらぬ背丈を見送り、ふと近くに立っていた隊士たちと目が合った。真剣な稽古場に、突然部外者が入ってきたのだ。柱である彼が許しても、気に障る隊士がいるかもしれない。
「あの、すみません。お邪魔しています。妨げにならないよう気をつけますので」
慎重に声をかけると、大袈裟に隊服の肩がピンと上がった。
「!あ…いや、どうぞお構いなく!全然気にしくていいから…なあ?」
「そうそう!情けねえ姿見せないようにってむしろ頑張れそうだし…なあ?」
「うんうん!こんな綺麗で可愛い子が見ててくれるなら、俺らも本気が出せるというか…なあ?」
目線が忙しなく動く隊士の呼びかけに、最後返事をした人はいなかった。正確には、一般隊士の中にはいなかった。