霞柱の色恋事情
「また隙が出来てる。ほら、脇が甘いよ」
カンッと木刀の弾かれる音が稽古場に響いた。けたたましく床に叩きつけられた木刀を、隊士は唖然としたまま凝視している。
緊張を孕んだ空気が、息をするのを忘れさせていた。最年少である霞柱は、尻もちをついた隊士を静かに見下ろす。
「はい、今ので死んだ」
木刀の先端をそっと向けられ、稽古を受けていた隊士は、怖気付いて顔をひきつらせた。
「何してるの?次、さっさとかかって来て」
控えている次の隊士が、いつまでも向かってこない。出てこないのではなく、出ていけないのだ。鋭い太刀筋は見るものを圧倒させ、体を萎縮させる力があった。立ち向かう前から、勝てないと思わせる。そんな見えない力がそこにはあるようだった。
霞柱はぐるりと周りを見渡した。
そのとき、道場の入口に立っていた私と目が合った。つい、鉄穴森さんの背中に身を隠しそうになる。私の知らない彼がそこにいた。まるで別人かと思って、驚いてしまっただけだ。
「襧豆子さん?」
そんな私の戸惑いを感じ取った鉄穴森さんから声がかかる。道場内の熱気にあてられたからだ。赤くなってるに違いない顔を、彼に見られたくないからじゃない。
鉄穴森さんの背中の羽織をつまんで、隠れたくなる衝動を抑えた。
「襧豆子!なんでここに?どうしたの?」
彼の纏う空気が、私の知るものに変わる。弾んだ声を出す時透くんの顔が見れなくて、彼の駆け寄ってくる足音が心臓に反響していた。
カンッと木刀の弾かれる音が稽古場に響いた。けたたましく床に叩きつけられた木刀を、隊士は唖然としたまま凝視している。
緊張を孕んだ空気が、息をするのを忘れさせていた。最年少である霞柱は、尻もちをついた隊士を静かに見下ろす。
「はい、今ので死んだ」
木刀の先端をそっと向けられ、稽古を受けていた隊士は、怖気付いて顔をひきつらせた。
「何してるの?次、さっさとかかって来て」
控えている次の隊士が、いつまでも向かってこない。出てこないのではなく、出ていけないのだ。鋭い太刀筋は見るものを圧倒させ、体を萎縮させる力があった。立ち向かう前から、勝てないと思わせる。そんな見えない力がそこにはあるようだった。
霞柱はぐるりと周りを見渡した。
そのとき、道場の入口に立っていた私と目が合った。つい、鉄穴森さんの背中に身を隠しそうになる。私の知らない彼がそこにいた。まるで別人かと思って、驚いてしまっただけだ。
「襧豆子さん?」
そんな私の戸惑いを感じ取った鉄穴森さんから声がかかる。道場内の熱気にあてられたからだ。赤くなってるに違いない顔を、彼に見られたくないからじゃない。
鉄穴森さんの背中の羽織をつまんで、隠れたくなる衝動を抑えた。
「襧豆子!なんでここに?どうしたの?」
彼の纏う空気が、私の知るものに変わる。弾んだ声を出す時透くんの顔が見れなくて、彼の駆け寄ってくる足音が心臓に反響していた。
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