中等部男子の長い昼休み

階段を上がる前に、手持ちのスマホからもう一度メッセージ画面を開く。先ほどと変わらず、無一郎からの返信は入っていなかった。

小さくため息がこぼれる。
画面を閉じて、一段目を踏み出した。上履きと床の擦れ合う音が弾けて、すぐにこの冷気の中へと消えていく。上がっていくにつれ、気温が徐々に下がっていくのを肌で感じとる。軽く身震いして、ポケットの中へ手を突っ込んだ。

『今日の帰り、どっちでもいいから大根買ってきてください』

笑顔の絵文字と一緒に送られてきた母からのメッセージは、無一郎にも届いているはず。今日は委員会で自分は遅くなるから、買い物ならば弟の方が適任だ。それを伝えておこうと里芋組に向かったら、肝心の本人が見当たらない。給食を終えてすぐ、そそくさと教室を出ていったと錆兎から聞いた。ざっくり教室内を見渡すと、襧豆子の姿もなかった。

もしかしたら二人は一緒にいるのかもしれない。いや、真菰の姿もなかったから襧豆子はきっと真菰と一緒だ。無一郎が一人で向かうならば、炭治郎や玄弥がいる高等部か…。けれど高等部に行って本人がいなければ、ただの無駄足だ。

熟考しながら冷え冷えとした廊下を歩く。他クラスから漏れる笑い声に耳を澄ますも、無一郎の声は入っていない。窓の外から中庭やグラウンドを見渡す。無一郎どころか、まず人の姿が見当たらなかった。

自分がもし一人になりたくなったらどこへ向かうだろう。弟が一人でいる方に賭け、自分ならばと考えた場所へ足を進めた。

最後の段差を上がりおえると、重厚感のある鉄扉が目の前に現れる。扉に嵌め込まれた四角形のガラス。そこから漏れるわずかな光が、周囲をほんのり照らしてくれていた。

扉を押し開けると、割くような風の音が耳に入ってくる。屋上へ降り立つと灰色の空が一層近くなった。扉のすぐ横、塔屋の形に沿って、ぐるりと後ろへ回っていく。反対側は影になっているから余計に冷えるだろうに。壁に背中を預けた無一郎が、一人でひっそりと座っていた。
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