中等部女子の長い昼休み

「ブスに加えて頭に"ど"を付けやがったのよアイツ…このアタシに向かって!襧豆子には悪かったと思ってるけど、アイツの言動だけは今思い出してもムカつくわ」

「せっかくだから梅ちゃんも相談に乗ってくれる?新しい服が欲しいから、アドバイス聞きたいな」

バツが悪そうに下唇を噛む梅ちゃんに、襧豆子ちゃんが穏やかな口調で話しかけ雑誌を手渡した。受け取った梅ちゃんがパラパラとページをめくりだす。紙が擦れる音が三人の間に流れた。

「べつに…服なんて何でもいいんじゃない?」

「いやいやデートだからね。可愛い服着ないと」
「ま、真菰ちゃん…」

「あ!これとかどう?」
広げて見せてくれた雑誌のページ。梅ちゃんの指先を追うと、ミニのニットワンピースにボアのロングブーツを着用した女の子がポーズを取っている。ワンピースは淡いピンクで、ブラウンのブーツはサイドにリボンがついている。首元には白いマフラーが巻かれていて、いかにも女の子らしいコーデだ。

「可愛い…けど…短いね」
「襧豆子ちゃん絶対似合う!」
ページを覗きこむ私たちを見て、梅ちゃんが満足そうに頷いた。

「抵抗があるならロングでもいいんじゃない?それならミニのムートンブーツも合いそうね…あと何かアウター合わせて…マフラーもいいけど、襧豆子は帽子も似合うんじゃない?アタシ的にはベレー帽とかいいと思うけど。ピンと合わせたら可愛いし。あ、でも帽子被るなら髪型はそれ用にしないとね。何かしたい髪型とかないの?先に髪型を決めて服選ぶっていうテもあるし………なによ」

私たちの視線を受け、梅ちゃんのページをめくる手が止まった。無意識に空いていた口を閉じる。心外だと言わんばかりの目で睨んでくる梅ちゃんだけど、私と襧豆子ちゃんにはただただ意外だった。

「いやぁ…なんか…」
「ちょっと意外で…」

「は?」

「梅ちゃんのことだから…」
「不細工が何着たって一緒よ、とか」
「アンタに似合う服なんてゴミ袋よ、とか」
「その辺のバケツ被って新聞紙でも体に巻いときなさい、とか」

「「そういうこと言うと思った」」

「アンタ達アタシを何だと思ってんのよ!!!」
美術室内に梅ちゃんの怒号が飛ぶ。けれどあの頃と違って、今は全然怖くなかった。むしろ可愛いとまで思える。
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