中等部女子の長い昼休み

外から入ってきた冷たい空気に体が身震いする。入口に視線を向けると、高等部二年の謝花梅ちゃんが扉に手をかけて立っていた。

「襧豆子に真菰!こんな所にいたの?」

「梅ちゃん!」
「どうしたの?こっち中等部…」
銀髪に山葵色の毛先と、容姿端麗な顔立ち。学園随一の不良兄妹として有名な梅ちゃんは、常に兄と共にいるはずなのに。どうしたことか珍しく、一人で中等部の校舎へやってきている。
長い髪を揺らしながらつかつかと歩み寄ってきたと思えば、手近にある角椅子に座った。

「教室にアンタ達の姿がないから探してたのよ。あと避難場所探しも兼ねて。アンタ達、アタシを匿って」

相変わらずの高圧的な態度でそう話しだす。
私も襧豆子ちゃんも、もう慣れたものだった。

「匿ってって言われても…」
「また先生から逃げてきたんでしょ〜?」

「だって担任がひどいのよ!今日はお兄ちゃんが風邪で休みだからアタシは早く家に帰らなきゃいけないのに!補習があるから放課後に残れって!うるさいったらありゃしない!」

「ここにいても時間の問題な気がするけど…」

地団駄を踏み始める梅ちゃんは、一応私たちよりも先輩なはずだった。同い年、あるいは年下のように感じるときがあるのは、その性格のせいだろう。以前はよく襧豆子ちゃんや炭治郎にちょっかいをかけていた彼女と、今ではこうして打ち解けているのだから、人の縁というのはわからない。

どれだけ悪態をつかれても、襧豆子ちゃんが態度を変えることはなかった。どんな相手にでも裏表のない笑顔を振る舞える子だ。そんな彼女に、梅ちゃんもほだされていったのかもしれない。


───ん?そういえば…。
仲良くなる前の記憶を辿っていたら、蘇ってくる光景が脳をかすめた。それを口に出すよりも、梅ちゃんの叫び声の方がはやかった。

「えぇ〜!?それ昆布兄弟の弟の方でしょ?襧豆子アイツとデートすんの!?やめときなさいよ!」

「昆布!?」
私が考えている間に、梅ちゃんにもデートの話が行き渡ったようだ。さっそくの暴言がまた彼女らしいけれど。
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