中等部男子の長い昼休み

『俺のじゃなくてお前のだろうが!!!』

『兄さんお願い!襧豆子にだけはあれを読んでたのは知られたくない!』

『あんなの学校で読むお前が悪いんだろ!』

『説教は帰って聞くから!今日の帰りにプリンも買ってくるから!』

「有一郎くん」
やわらかい声音で話しかけられると、襧豆子がゆっくりと無一郎の後ろから出てきた。はい、と差し出された雑誌の表紙には、ウインクをする金髪の男と、やはりダサいと感じるタイトルとキャッチコピー。

男の呼吸、愛の型。恋の千本桜。
もう大丈夫。
君は彼女と結ばれるために生まれてきたんだ。


「………………アリガトウ」

本来の持ち主である弟に変わって、大人しく雑誌を受け取った。我ながら本当に優しい兄だと思う。睨みつけても、表紙の男の余裕ある笑顔は変わらない。"もう大丈夫"というフレーズが、全然大丈夫じゃない今の状況を嘲笑ってるようで、それが余計イラつかせた。

襧豆子の後ろで両手を合わせ、頭を下げる無一郎と、俺の後ろで笑いを堪えてる奴ら。何も知らない襧豆子だけが優しく俺に笑いかけていた。

いつか初恋の女の子と弟が結ばれたら。
胸に残る思いはただ一つ。


今日の真実だけは絶対に伝える───。


十一月の空の下。
冬の訪れを知らせる風と一緒に、昼休み終了のチャイムが軽やかに走り抜けていった。
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