中等部男子の長い昼休み

葉っぱが少なくなった木々と、寂しさを見せる花壇に迎えられる。上を見上げた無一郎が、指をさしながら叫んだ。

「屋上の、えーと…あの辺にいたっけ?」

「位置的に、美術室の辺りじゃないか?」
屋上にいた自分たちの位置と、美術室の位置を頭の中で組み合わせた。地面に視線を這わせながら歩いて行くと、ふいに無一郎が立ち止まる。見つけたのかと思ったが、違うとすぐに気づいた。

顔を上げると、雑誌を大事そうに胸に抱える襧豆子が立っているではないか。

「「襧豆子!!!」」

「無一郎くんに有一郎くん、それにみんなも…何してるの?」

「ね、襧豆子こそ何してるの?」
「美術室にいたら、真菰ちゃんが何か落ちたかもって気づいて…見にきたらこれが中庭に落ちてたの。もしかしてこれ二人のだった?」

そう言って表紙を見せるように、手元の雑誌を持ち替えた。恋の千本桜を手にした襧豆子の笑顔は、素なのか気を使ってくれてるのかわからない。

前にいる襧豆子を見ていた無一郎が、ふいにくるりと振り返ってきた。目線は合っているはずなのに、瞳は重なっていない。

「?なんだよ──」
「兄さん、駄目じゃん落としたら」



「………………………はぁぁぁっ!?」
「あ、これ有一郎くんの?」
「うん、そうだよ」
襧豆子に背を向けたまま無一郎が返事をする。ふざけたことを言いだすコイツへの抗議を口パクでしてやる俺は、我ながら優しい兄だと思う。
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