中等部女子の長い昼休み

分厚い灰色の雲が、まだらに空を漂っていた。それでも時折、わずかな雲間から太陽の光が降り注ぐ。

気候が秋から冬にグッと切り替わる今の季節は、寒暖差が激しい。よく晴れた温かい日には、中庭や屋上で昼休みを過ごす生徒も多いが、今日のような肌寒い日には、ほとんどの生徒が教室に身を潜めている。

いつもより給食をはやく食べ終え、ゆっくり話せそうな空き教室を探す。順繰りにのぞいて行くと、先客のいない美術室で足が止まった。すばやく中に入ると、絵の具や油絵の匂いが染みついた美術室内を見渡す。自分たち以外誰もいないというのに、窓際の席を陣取りに走った。

そんな私を見ていた友人が笑いながら付いてくる。二人が座ったところで、水を得た魚のように口がすらすらと動きだした。

「それで?それで?無一郎くんとイブに会うってどういうこと!?どうしてそういうことになってるの?いつの間にそんなに進展してたの!?」

「真菰ちゃん、落ちついて」
苦笑いで襧豆子ちゃんはそう言うものの、落ちつけるわけがない。同じクラスの時透無一郎くんに、襧豆子ちゃんはずっと恋心を抱いていた。初めて相談を受けたときの興奮は今でも思い出せる。頬を赤らめ嬉しそうに好きな人の話をする彼女は、恋する乙女という言葉がまさにぴったりと当てはまっていた。

鼻息荒く質問攻めする私に押されつつ、恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに襧豆子ちゃんがゆっくりと話しだした。

「えっと…先週の金曜日にね。帰り際、無一郎くんに話しかけられたの。今年のクリスマス会も楽しみだねって、そういう話をしてたんだけど…」

「うんうん」

「それで…二十四日はどうするのかって聞かれて…お店の手伝いがあるって答えて…それで…」その時を思い出しているのか、頬がみるみるうちに赤く染まりだした。自身の宝箱の中から、大切な思い出をひとつひとつ取りだして見せてくれてるかのように、噛みしめながら話しだす。その姿がなんとも初々しい。自然と口元がうずうずしてくる。

「夜は空いてる?って聞かれたから、空いてるって言ったら………駅前のイルミネーション一緒に見に行こうって誘ってくれた…」

両手で顔を覆って、前のめりになってしまった。耳まで赤くなっている彼女は、きっと様々な感情に押しつぶされそうになっているのだ。そして昂る感情は私も同じだった。
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