中等部男子の長い昼休み

「えー!有一郎、意外にロマンチスト!」
「わ…ドキドキする台詞ですね」
「意外に策士だな」

「ほ、ほら次!竹内と愈史郎はどうなんだよ!」
自分から注目をそらせようと、すぐに竹内と愈史郎へ会話のボールを投げる。無一郎の探るような瞳は、気づかないふりをした。

「はいはい俺はね!前にアニメでかっこいいの観たんだー!愈史郎ちょっと頭貸して」

「は?」
隣に座る愈史郎の後頭部をガシッと竹内が掴んだ。アニメのキャラの真似だろうか。目を細めてかっこよく微笑んでいる…つもりらしい。本人は。まるで人を小馬鹿にするような笑みを浮かべ、愈史郎の青筋をものともせずに顔を近づけて言った。

「襧豆子。今日から俺の彼女。……なっ」

口元にゆるやかな弧を描き、優しく微笑んでいる…つもりらしい。本人は。"なっ"に合わせて首を傾げる仕草と共に、竹内の短い髪がそよそよと揺らいだ。


「却下!!!」
「気色悪い!」
「不快だ」
「…ノーコメントで」

「殺すぞ!!!」



「辛辣!!なんで!?これかっこよくない!?」
「貴様さっさと離れろ!!!」

「というか襧豆子の名前勝手に使わないでよ!」

「無一郎がイメージしやすいように使っただけだよ!」手にしていた雑誌を器用に丸め、愈史郎が竹内をしばき始めたのを、慌てて弟が止めだした。こうなってくると長くなる。

ため息がこぼれて空を仰いだ。少なくなっていた薄墨色の雲は、もうほとんど消えていて、空一面には青空が広がっていた。


「気持ちの悪い茶番に付き合わせて、大体お前はいつもいつも──!」

「無一郎のために見本を見せただけだって!」

「まだ全部読んでないんだから返してよ!」

竹内を追いかける愈史郎。
愈史郎から逃げる竹内。
そして二人を追う無一郎。

三角関係になってるようでなってない鬼ごっこを見つめていると、両腕を上げ、伸びをしながら錆兎が話しだす。

「結局、話はまとまってないけど大丈夫なのか?」

「まぁ、なるようにしかならないだろ」

「上手くいくといいですね、無一郎さんと襧豆子さん」

「…そうだな」
千寿郎の言葉に、頷いて返事を返した。
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