中等部男子の長い昼休み

「ちなみにさ。みんなは告白するなら、なんて言って告白する?」無一郎の質問に、すぐに答えられる奴はいなかった。腕を組んで首を捻ったり、顎に手を当てていたり、各々の反応を見せる。質問に最初に答えたのは錆兎だった。

「なんて言うも何も…ただ正直に言えばいいだけじゃないのか?」

「なんて?」

「好きだ。俺と付き合ってほしい。……って」

「おー!」
「かっこいいです…!」
「シンプルかつストレート!」

好感触な反応が出る中、錆兎が隣にいる千寿郎を向く。次はお前の番だと言いたげな表情を汲み取った千寿郎が、恥ずかしそうに話しだす。

「僕は…最近読んだ本の話なんですけど。告白シーンがあって、素敵だなって思った台詞が…僕をあなたの恋人にしてください。ですかね…」

「へー!なんかいいじゃん!」
「優しい感じがする」
「千寿郎らしいね」

必死でイメージトレーニングをしているのか、無一郎がふむふむと頷いている。まさかと思い無一郎から視線を外すと、右隣の錆兎。その隣の千寿郎と目が合った。

視線を戻し左を向くと、無一郎とその隣の愈史郎。さらに隣の竹内と目が合った。

「え………俺も?」
「当たり前じゃん。兄さんならなんて言う?」

なんて言う…?

なんて…

言いたかったんだろう。

『有一郎くん』
甘いパンの香りを漂わせて。
優しい声で名を呼んでくれた彼女へ。
赤いランドセルを背負った後ろ姿を追いかけて。
何度も呑み込んできた言葉は何だったか。


「えっと…俺だったら…」

唾液を飲み込むと、乾燥している口の中に気づいた。無意識に口元へ手を持っていく。彼女と二人きりになると、何を話せばいいのかわからなかった。

「………お前のこと好きだって言ったら、どうする?って…聞きたくなるかも…」

記憶の中の幼い彼女が振り返ると、花のような笑顔を残してすぐに消えていった。
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