中等部男子の長い昼休み
***
「───じゃあこの変でダサくて気持ちが悪くて、馬鹿しか読まなさそうな雑誌なんかなくても、みんなはデートも告白も上手くできるってことだよねぇ?」
不機嫌を剥き出しにして、無一郎が早口にそう切りだした。竹内と愈史郎も加わった輪の中を、睨みながらぐるりと見渡している。胡座をかいて座る馴染みメンバーは言葉をつまらせ、律儀に正座している千寿郎はデートや告白という単語が気恥ずかしいのか、伏し目がちになっている。
太陽が出てきたおかげで、暗かった屋上内の一部に日差しが降り立つ場所ができた。日がよく当たる手すりの付近に移動して、まるで暖を取るように輪になって座る。
「デートも告白も、する予定ないんだが…」
「僕も…好きな女性とかいないですし…」
「女の子にモテたいってのは常々思ってる!」
「こんなもの読まずとも、お前なら困らないだろう」
言いながら雑誌を目通ししているのは愈史郎だった。ページをめくる音と、幾分やわらかくなった風がみんなを包む。空を仰ぎながら竹内が同意した。
「だよなー。無一郎も有一郎もだけど、女子からの人気凄まじいじゃん。もう十分モテ男だよ」犯人でも当てるかのように、竹内が俺と無一郎に向かって指をさしてきた。双子という物珍しさと、所属している将棋部の方ではテレビの前で対局をしたこともある。俺も無一郎も、それなりに周りから注目されていることに正直自覚はもっていた。
無一郎が軽く睨みつけて話す。
「どうでもいい相手にモテたって意味ないよ。興味もないし。僕は襧豆子だけにモテたいんだから」
錆兎が深々と頷いて、千寿郎は自分が言われたかのように胸元に手を当て照れ笑いをしている。こういうことをはっきりと言えるコイツを、たまに羨ましく思う。
「…俺もそんな台詞言ってみたいよ」
「お前が言っても様にならんがな」
「イブに会ってくれるなら、脈はある方だと思うぞ」
「はい。僕もそう思います」
「…デートのつもりで誘ったけど、襧豆子の方はどう思ってるのかわからなくて。鈍感だと思うし」
この場にはいない話の中心人物を思い浮かべる。いつの日だったか、不良の先輩に絡まれていた襧豆子を無一郎が庇ったことがある。自身の腕の中で、桃色に染め上がった襧豆子の頬に、もしかして気づいていなかったんだろうか。
鈍感なのはお前もだろ。
心の中でツッこんでおいた。
「───じゃあこの変でダサくて気持ちが悪くて、馬鹿しか読まなさそうな雑誌なんかなくても、みんなはデートも告白も上手くできるってことだよねぇ?」
不機嫌を剥き出しにして、無一郎が早口にそう切りだした。竹内と愈史郎も加わった輪の中を、睨みながらぐるりと見渡している。胡座をかいて座る馴染みメンバーは言葉をつまらせ、律儀に正座している千寿郎はデートや告白という単語が気恥ずかしいのか、伏し目がちになっている。
太陽が出てきたおかげで、暗かった屋上内の一部に日差しが降り立つ場所ができた。日がよく当たる手すりの付近に移動して、まるで暖を取るように輪になって座る。
「デートも告白も、する予定ないんだが…」
「僕も…好きな女性とかいないですし…」
「女の子にモテたいってのは常々思ってる!」
「こんなもの読まずとも、お前なら困らないだろう」
言いながら雑誌を目通ししているのは愈史郎だった。ページをめくる音と、幾分やわらかくなった風がみんなを包む。空を仰ぎながら竹内が同意した。
「だよなー。無一郎も有一郎もだけど、女子からの人気凄まじいじゃん。もう十分モテ男だよ」犯人でも当てるかのように、竹内が俺と無一郎に向かって指をさしてきた。双子という物珍しさと、所属している将棋部の方ではテレビの前で対局をしたこともある。俺も無一郎も、それなりに周りから注目されていることに正直自覚はもっていた。
無一郎が軽く睨みつけて話す。
「どうでもいい相手にモテたって意味ないよ。興味もないし。僕は襧豆子だけにモテたいんだから」
錆兎が深々と頷いて、千寿郎は自分が言われたかのように胸元に手を当て照れ笑いをしている。こういうことをはっきりと言えるコイツを、たまに羨ましく思う。
「…俺もそんな台詞言ってみたいよ」
「お前が言っても様にならんがな」
「イブに会ってくれるなら、脈はある方だと思うぞ」
「はい。僕もそう思います」
「…デートのつもりで誘ったけど、襧豆子の方はどう思ってるのかわからなくて。鈍感だと思うし」
この場にはいない話の中心人物を思い浮かべる。いつの日だったか、不良の先輩に絡まれていた襧豆子を無一郎が庇ったことがある。自身の腕の中で、桃色に染め上がった襧豆子の頬に、もしかして気づいていなかったんだろうか。
鈍感なのはお前もだろ。
心の中でツッこんでおいた。