中等部男子の長い昼休み

「───えぇっ!?この本、無一郎さんのだったんですか!?す、すみません僕…変とか言っちゃって」

「千寿郎、お前の反応は間違えてないよ」

「すまん、悪かった…………でも、なんでこれをチョイスしたんだ?」

「な、みんなそう思うよな」
「兄さんうるさいよ!!」

中央に置かれた雑誌を囲うようにして、俺と無一郎の前に錆兎と千寿郎が座った。事の経緯を聞いた錆兎はさほど驚いていなく、無一郎の気持ちには薄々気づいていたらしい。驚いていたのは、顔を赤くした千寿郎と、気づかれていないと思っていた無一郎だった。

「いやバレバレだぞ。多分、真菰も気づいてると思う」

「…僕は全く気づきませんでした。でも、さすが無一郎さんですね。襧豆子さんのために予習を欠かさないなんて。お二人が恋人同士になったら、とってもお似合いだと思います」

先ほどの罪悪感からか、千寿郎がフォローをいれる。もう勉強教えてあげない。そう言って拗ねていた無一郎の機嫌が、わかりやすく直ってきていた。お似合いと言われて嬉しそうにはにかむ姿は、弟の幼い頃を思い出させた。


「───何この雑誌変なのー!あっはっはっ!!こんなの誰が読むの?」

「なんだこの馬鹿しか読まなさそうな書物は」
「いやいや、馬鹿な俺でも読まないよこれは」

銀杏組の六時間目は美術の授業だ。誰か絵の具セットを貸してほしいとやってきた竹内と、俺たちを探すのに付き合わされた愈史郎。先ほどの錆兎と千寿郎のように、これが無一郎の物だなんて知らない二人は言いたい放題だ。

機嫌が戻って安堵していた時間は本当につかの間で終わる。青ざめる千寿郎と笑いを堪える錆兎の隣で、再び不機嫌になった無一郎の機嫌をどう戻そうか。

今日の昼休みは長くなる。
そう直感して空を見上げると、いつの間にか青空が一面の半分を占めていた。
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