中等部男子の長い昼休み

「………襧豆子、喜ぶかなと思ったんだけど」

「いやいやドラマとかのシーンでよく見るけど。あれはいい大人がそれなりにいいお店でやるからいいんであって、俺たちまだ中学生だろ。そういうのは大人になってから襧豆子にしてやれ。な?」

「うん…じゃあやっぱりイルミネーションの前で言った方がいいのかな。帰り際がいいと思う?」

「う…うーん…」
いつの間にか腕を組んで、真剣に当日の二人の様子を思い浮かべていた。冷たい空気の中に、やわらかい陽の温もりが混じりだした。薄墨色の雲間から、陽光がほんのりと降り注いでいる。今日よりもずっと気温が下がったイブの夜に、イルミネーションの前で自身の想いを伝える無一郎と、それに返事をする襧豆子。

………正直、両思いに見える二人なので、どのタイミングで言ったって結果は同じなように思う。

弟からの質問に答えかねずにいると、屋上の扉が開く音が聞こえてきた。塔屋の角を見ると、黒い影が二つのぞいてくる。それは錆兎と千寿郎だった。

「お、いたいた」
「二人、一緒だったんですね」

「どうしたの?」
閉じた雑誌を置いて二人へ視線を向けた。俺の肩ごしに顔をのぞかせる無一郎が答える。

「千寿郎がお前たちを訪ねてきてたから、一緒に探してたんだよ」
「すみません、昼休みに…ちょっと宿題でわからないとこがあって」風でなびく髪を押さえながら、二人が近づいてくる。重なっていた二人の視線が外れ、ゆっくりと下へ向かっていくのがわかる。明らかに俺の手元にある雑誌を見ていた。

引き寄せる何かがあるのだろうか、この雑誌には。
そして顔の筋肉をひきつらせる力でもあるのだろうか、この表紙には。

自分の中の"漢"としての倫理観とは相容れないらしい。嫌悪感たっぷりな表情で錆兎が言い放つ。

「………なんっだそのおぞましい雑誌は。気持ちが悪い」

「誰かの落し物ですか?………………うわぁ、変な本」
温厚で優しい性格を知ってる分、容赦のない言葉には切れ味がある。吹き出しそうになるのを堪えて隣の無一郎を見ると、虚空を見つめた瞳で座っている。

異議を唱えるように、雑誌がまた風でパラパラとめくれだした。
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