中等部男子の長い昼休み

「こんなところにいたのか」

「…ん、兄さん。どうしたの?」
「母さんからラインきてて買い物頼まれたんだけど…って、たぶんお前にもきてるはずだぞ。俺今日委員会あるから、任せていいか?」

無一郎が手に持っていた本を下に置いて、ポケットをまさぐりだした。スマホを取り出し確認しだす。その所作を何となしに見ていると、頬を打つような風が前を通りすぎた。

パラッと紙を打ちつく音が聞こえて、視線を本へと移す。風の流れに従い、本のページがバラバラのリズムでめくれだしていた。飛ばされそうだと拾い上げると、予想していたものとまったく違う表紙のデザインが目に飛びこんできた。

無一郎が見ていた本は、参考書…もしくは将棋に関する本かと思っていたら、どちらでもなかった。

まばゆいほどの金髪をなびかせ、ウインクをした男が表紙を飾っている。右手は胸元に添えられ、左手は指をしなやかに曲げて前面に突き出していた。よくアイドルがやってる王道なポーズだ。

非常に鼻につく表紙の男だが、更に煽ってくるのは雑誌のタイトル。そして囃し立てるように散りばめられたキャッチコピーが、また更に不快感を増幅させる。

「…男の呼吸、愛の型………恋の千本桜。モテ男の世界へようこそ…君もモテ男にならないか?もう大丈夫、………君は彼女と結ばれるために生まれてきたんだ」

タイトルに続き、ついでにキャッチコピーも読み上げた。ゆっくり声に出してみると、頬に熱がこもりだしたにもかかわらず、背中には寒気を感じる。


「なんだこのダッセェ本!!!!!」

十一月の屋上。
近づいてくる冬の足音をかき消しそうな大声が、自身の口から飛び出してきた。
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