中等部女子の長い昼休み
朝の学園の昇降口は騒がしい。
挨拶を交わし合う声が、いたるところで沸き起こっていた。
登校してきた生徒たちが順に外履きから上履きに履き替えだすと、土や汗の匂いが一斉に漂いはじめる。履き慣れた上履きに脚をおさめると、学校に来たと強く実感できる。外履きとはまた違う、この感覚が好きだ。綺麗に脚はおさまってるのに、思わずつま先を床に叩いてしまう癖は、未だ直らない。靴にも脚にも良くないからやめた方がいいと、以前錆兎に言われたけど、いつもやってしまった後に思い出すから意味がなかった。
自身の教室を目指しながら、これから友人へ話そうと思っている内容を頭の中で整理した。昨夜、スマホでSNSをのぞいているときに新しい情報を仕入れたのだ。
学校からさほど遠くない距離に、新しい雑貨屋さんがオープンしたらしい。お店の名前と共に掲載されていた写真には、文房具やアクセサリー、ぬいぐるみ等が陳列された店内の様子が写されていた。見どころ満載な商品が数枚に分かれてピックアップされており、私が好きなキャラクターものや、友人が好きそうな小物も見つけられた。
教室に入ってすぐ、見慣れた後ろ姿を見つける。長い黒髪に橙色の毛先。彼女のトレードマークでもあるピンクのリボンが、今日も愛らしくぴょこんと上を向いていた。自分の机に鞄を置き、早足で友人の席へ向かう。
「襧豆子ちゃん!おはよっ」
後ろから抱きつくと、ほのかにパンの香りが鼻腔をくすぐってきた。甘いパンの匂いは彼女の香水のようなものだった。
「真菰ちゃん。おはよう」
「襧豆子ちゃん、聞いて。昨日ね…」
さっそくと雑貨屋さんの話を切りだす前に、友人の手元に目線がいく。女の子向けの雑誌が机の上に広げられていた。自分も見たことのある雑誌だった。開かれたページには『クリスマスコーデ特集』とポップなロゴが飾りつけられている。流行りの服を身にまとったモデルの女の子達が、それぞれポージングを取っていた。
「クリスマス…?服買うの?」
「…うん。ちょっと新しいの欲しくなって」
「あぁ。もしかして今年のクリスマス会に着ていくやつ?」
それならば合点がいく。去年の十二月二十五日。中等部の仲良しメンバーを集めて、クリスマスパーティーを開いたのだ。持ち込み可のカラオケボックスに行って、各々担当の食べ物を持ち寄り、楽しいクリスマスを満喫した。今年もやろうとみんなで計画を立てていたから、きっとそうだろうと思ったけど、襧豆子ちゃんの歯切れが悪かった。
そっちもそうなんだけど…。
言いながら、手元の雑誌をパラパラと無造作にめくりだす。抱きつくのをやめ、襧豆子ちゃんの机に手をついた。俯いている友人と目線を合わせるためしゃがみこむと、なんだか様子がおかしいことに気づく。まるで熱でもあるかのように頬が赤い。
襧豆子ちゃんが、ぼそぼそと話しだす。残っていた朝の眠気を一気に吹き飛ばすその内容に驚きを隠せなかった。
「えっっ!?イブにむッ…!」
「真菰ちゃんストップ!!!」
場所も気遣いも忘れた私の口元を、電光石火のごとく襧豆子ちゃんが両手で塞いできた。
「ふぉへん…(ごめん)」
すぐさま教室内を見渡すと、話の中心人物の彼はまだ登校してきていないようだった。一緒に見渡していた友人もそれに気づくと、安堵から机に突っ伏してしまう。塞がれていた手が口元から離れると、謝罪も含め彼女の頭を撫でた。
はやく、はやく。
今日の授業はもう全てどうでもいい。
朝のホームルームも始まっていない時間。
すでに昼休みが待ち遠しかった。
挨拶を交わし合う声が、いたるところで沸き起こっていた。
登校してきた生徒たちが順に外履きから上履きに履き替えだすと、土や汗の匂いが一斉に漂いはじめる。履き慣れた上履きに脚をおさめると、学校に来たと強く実感できる。外履きとはまた違う、この感覚が好きだ。綺麗に脚はおさまってるのに、思わずつま先を床に叩いてしまう癖は、未だ直らない。靴にも脚にも良くないからやめた方がいいと、以前錆兎に言われたけど、いつもやってしまった後に思い出すから意味がなかった。
自身の教室を目指しながら、これから友人へ話そうと思っている内容を頭の中で整理した。昨夜、スマホでSNSをのぞいているときに新しい情報を仕入れたのだ。
学校からさほど遠くない距離に、新しい雑貨屋さんがオープンしたらしい。お店の名前と共に掲載されていた写真には、文房具やアクセサリー、ぬいぐるみ等が陳列された店内の様子が写されていた。見どころ満載な商品が数枚に分かれてピックアップされており、私が好きなキャラクターものや、友人が好きそうな小物も見つけられた。
教室に入ってすぐ、見慣れた後ろ姿を見つける。長い黒髪に橙色の毛先。彼女のトレードマークでもあるピンクのリボンが、今日も愛らしくぴょこんと上を向いていた。自分の机に鞄を置き、早足で友人の席へ向かう。
「襧豆子ちゃん!おはよっ」
後ろから抱きつくと、ほのかにパンの香りが鼻腔をくすぐってきた。甘いパンの匂いは彼女の香水のようなものだった。
「真菰ちゃん。おはよう」
「襧豆子ちゃん、聞いて。昨日ね…」
さっそくと雑貨屋さんの話を切りだす前に、友人の手元に目線がいく。女の子向けの雑誌が机の上に広げられていた。自分も見たことのある雑誌だった。開かれたページには『クリスマスコーデ特集』とポップなロゴが飾りつけられている。流行りの服を身にまとったモデルの女の子達が、それぞれポージングを取っていた。
「クリスマス…?服買うの?」
「…うん。ちょっと新しいの欲しくなって」
「あぁ。もしかして今年のクリスマス会に着ていくやつ?」
それならば合点がいく。去年の十二月二十五日。中等部の仲良しメンバーを集めて、クリスマスパーティーを開いたのだ。持ち込み可のカラオケボックスに行って、各々担当の食べ物を持ち寄り、楽しいクリスマスを満喫した。今年もやろうとみんなで計画を立てていたから、きっとそうだろうと思ったけど、襧豆子ちゃんの歯切れが悪かった。
そっちもそうなんだけど…。
言いながら、手元の雑誌をパラパラと無造作にめくりだす。抱きつくのをやめ、襧豆子ちゃんの机に手をついた。俯いている友人と目線を合わせるためしゃがみこむと、なんだか様子がおかしいことに気づく。まるで熱でもあるかのように頬が赤い。
襧豆子ちゃんが、ぼそぼそと話しだす。残っていた朝の眠気を一気に吹き飛ばすその内容に驚きを隠せなかった。
「えっっ!?イブにむッ…!」
「真菰ちゃんストップ!!!」
場所も気遣いも忘れた私の口元を、電光石火のごとく襧豆子ちゃんが両手で塞いできた。
「ふぉへん…(ごめん)」
すぐさま教室内を見渡すと、話の中心人物の彼はまだ登校してきていないようだった。一緒に見渡していた友人もそれに気づくと、安堵から机に突っ伏してしまう。塞がれていた手が口元から離れると、謝罪も含め彼女の頭を撫でた。
はやく、はやく。
今日の授業はもう全てどうでもいい。
朝のホームルームも始まっていない時間。
すでに昼休みが待ち遠しかった。
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