あの日のヒーロー

「二人で買い物に来たの?」
女の子がたずねてきた。いくら歳が近いとはいえ、初対面の相手にこうも自然と話しかけられるなんて、素直にすごいと思えた。人見知りの俺からすれば、ハードルの高いことだったからだ。

「うん」

「すごいね!それに楽しそう!」

「…きみは、竈門ベーカリーの子なの?」
おずおずとした様子で無一郎が声をかける。

「そうだよ。お父さんやお兄ちゃんがパンを作ってるの。きみ達は双子なんだね。初めて出会っちゃった。そっくりだね」

「あぁ、まぁね…」
気の利いた返し方がわからず、ぶっきらぼうな返事になってしまう。自分でも嫌な感じだという自覚はある。それでも女の子は全く気にする様子はなかった。

「二人は性格も似てたりするの?」

「いや全然。こいつは泣き虫だけど俺は違う」

「ちょっと兄さん!!!」
性格のことを聞かれては黙っていられない。泣き虫な弟と一緒にされるのは、俺の小さいプライドが許さなかった。隣の弟を指さして言い放つ俺と、慌てふためく無一郎を交互に見て、女の子が吹き出した。

「…ふふっ、あはははっ!仲良いんだね」
まるで警戒心のないように、あどけなく笑いだす。人見知りをしないに加え、裏表のない子なんだと感じる。クラスメイトの女子にだって、別段何とも思ったことはないのに。この子は何かが違う気がした。

ふいに無一郎の様子を窺ってみる。

頬を赤く染めて女の子を見ていた。
…口をポカンと開けて。
なんて間抜けな顔してるんだ。

気づいて自身の口元へ手を持っていく。
開いていた口をすぐさま閉じた。
…俺も同じ顔をしていたらしい。
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