魔女の秘密

*有一郎side*

竈門家が用意してくれたというかぼちゃのタルトレットは、番重が三箱分、用意されていた。ひとつひとつ包装された透明のラッピング袋が、きれいに整列して収まっている。竈門ベーカリーとロゴが入った番重を一箱ずつ、三人で分け持って教室へ向かっていた。

突然にゲームが終了となり、肩から力は降りたものの、羞恥心が苦く残っていた。

「………いつから気づいてたんだよ」
電気の点いた教室まではまだ遠い。月光に白く浮かぶ廊下を、目を凝らしながら進んだ。

「えーっと…教室に入ってから、かな」
「一番最初じゃねーか…!」

「なんですぐ言わなかったの?」
俺を真似た低めの声質から、無一郎は本来の声質に戻っていた。気まずそうな、それでいて子のいたずらに微笑む母のような響きを含ませ、襧豆子が応える。

「ハロウィンだし、二人で遊んでるかと思ったんだもん。だからこれは、みんなの前で言わない方がいいかと思って」

「ずっと伺ってたわけ?」
「う、うん…二人とも上手に演技してたし、いつネタばらしするのかなーと…」

「………それ以上はやめてくれ。ハズい」
バレてることに気づかず、ずっと無一郎の真似をして喋っている自分が、一層滑稽に思えてくるではないか。両手で顔を覆いたくなったが、手が塞がっているためできない。右隣を歩く襧豆子が、慌てて首をこちらに向ける。

「えっ。私みんなに言わないから、ちゃんと続けていいよ!」

「できるわけねーだろ」
「襧豆子にバレてるのに続けられないよ」

こんなゲームを始めた理由がどうでもいいと、ばからしいとさえ思えるように、無一郎が心底おかしそうに笑い始める。思わずつられてしまうと、冷たい廊下に吸血鬼の笑い声だけが温かく灯った。

徐々に足元が照らされ、視界が明るく開きだす。壁に組み込まれた消火栓が正面に見える。あそこを曲がれば、騒がしいハロウィンパーティーの教室はすぐだった。
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