魔女の秘密

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「………あぁ、かまわない。ただし、流すのは教室のみでするように。音は小さくして、珠代先生の指導に必ず従うこと」

「はい、ありがとうございます!」
「楽しむといい。お菓子もありがとう」
炭治郎や玄弥の所属する教室に入ったことはあるが、高等部の職員室は初めてだった。職員室には明かりが点いており、悲鳴嶼先生は大量のテスト用紙に向き合っていた。
一番上のプリントには、竈門炭治郎と見知った名前がある。点数は悲鳴嶼先生の筆箱に敷かれ、隠されていた。

中等部の教室へ戻るまで、ずっと電灯が点いているわけではない。高等部の職員室がある一階は、職員室と面した廊下のみだけ。中等部と高等部を繋ぐ渡り廊下は真っ暗で、唯一照らしてくれるものといえば、窓から降り注ぐ薄い月明かりだけだった。

魔女を間に挟んで吸血鬼は歩く。放送室使用の許可がおりたことを、襧豆子は真菰へ連絡していた。話しかけようとすると、彼女がふいに顔を上げる。

「…あ、お土産…」
「どうした?」

「クラスみんなのお土産に、お父さんたちからお菓子を預かってるんだけど…それも悲鳴嶼先生に持って行けばよかった」

「帰りにまた寄る?」

「うーん…時間が来たらはやく帰るようにって言ってたから…一旦戻ってもう一回渡しに行くよ。結構数があるから、中等部の家庭科室に置いてあるの。二人は先に戻ってて」

そう襧豆子が言うや否や、ポップな音楽がかすかに聞こえだした。教室にあるスピーカーから流れる音楽が、廊下を渡ってきているのだろう。少しだけ音量が下がる。

「暗いし、僕も一緒に行くよ」
無一郎に化けた有一郎。

「いいの?有一郎くん」

「教室にもお菓子運ぶんだろ?俺も行く」
有一郎に化けた僕。

「無一郎くんまで。二人ともありがとう」

──ピキっと空気にひびが入るような音は、響く音楽の中にある楽器だった。割れたのは空気じゃなく、被ったお互いの仮面。

三人の沈黙を引き立てるのは、流れるハロウィンの歌。三人の沈黙をかき消したのは、まるでオバケでも見てしまったかのような、僕たちのまぬけな声。

魔女はしまったと目を見開いた後、すぐに申し訳なさそうな苦笑いを浮かべた。
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