魔女の秘密

「…に…、無一郎!襧豆子!」
伸びた廊下の表面に、電灯の光が強く反射していた。外が夜であることも関係し、光沢が艶々と光って見えて、目が自然と瞬く。

「兄さん、どうしたの?」
「………二人で、どこ行こうとしてんだよ」すっかり僕になりきった有一郎が、不思議そうに振り返って言った。隣にいる襧豆子は、よく見ると片手にビニール袋を持っている。

「今日、高等部の宿直の先生がね、悲鳴嶼先生らしいの。それで、この缶ジュースとお菓子、先生におすそ分けに持って行こうと思って。あと、お礼も兼ねてね」

「…お礼?」
「さっき珠代先生から聞いたんだけど、ハロウィンパーティーができたのは、悲鳴嶼先生の影響もあるんだってさ。万が一に何かあっても、悲鳴嶼先生が高等部にいるなら安心だって、後押しがあったらしいよ」

そう発言する兄は、すっかり僕の演技が板についていた。心なしか、最初よりも上手くなっているんじゃないかと思ってしまう。
襧豆子と有一郎が教室を出ていった理由に、なるほどと納得したところで、今度は錆兎と真菰が教室を後にしてやって来る。

「三人とも、悲鳴嶼先生のとこ行くんだよな」好都合なことを言ってくれた錆兎に頷き返すと、真菰が自身のスマホを掲げながら言った。

「だったらさ、放送室を借りていいか、悲鳴嶼先生にも訊いてみてくれない?珠代先生に許可はもらったから。ハロウィンにちなんだ音楽、パーティーに流したいんだ」

「わぁっ、いいねそれ!」
「許可もらえたら、ラインに連絡くれる?あと、流してほしい歌あったら教えて〜」

襧豆子と真菰、錆兎が会話を始めた。その隙を狙い、無一郎になった兄を肘で軽く小突く。

「…抜けがけはさせないよ」
舌打ちができないその癖の代わりに、兄はバツが悪そうにそっぽを向いた。傍から見れば、有一郎ではなく僕が襧豆子と二人でいる光景なのに、おかしな話だった。
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