魔女の秘密

ハロウィンパーティーの話を最初に持ちかけたのは、意外にも竹内と愈史郎の二人だった。あまり大勢で騒ぐことを好まない愈史郎が、なぜこんな企画を率先して開催したかというと、その理由は明白だった。何かを思いきり転がすような音が廊下から響いてくる。そしてその音は、教室の前で止まった。

「珠代先生、どうぞ!こちらの椅子におかけください!」そう言ってミイラ男…もとい愈史郎が持ってきたのは、理事長や校長、いわゆる偉い人が座るために造られたような本革の椅子だった。先ほどの轟音はキャスターが悲鳴を上げている音だったらしく、あの椅子の出処に皆が見て見ぬふりをする。

「愈史郎…!私は皆さんが使われてる椅子で十分です。戻してきなさい…!」

愈史郎の突飛さに、女子生徒と談笑していた珠代先生がすぐさま反応した。見慣れた光景を眺めながら、ジュースを一口飲む。笑いを堪えながら、竹内が小声で話しかけてきた。

「俺の作戦勝ち」
「…どうやって愈史郎をその気にさせたんだよ」有一郎を演じながら返事を返す。竹内が気づく様子は一切なかった。

「ハロウィンパーティーを思いついたときに、ちょうど愈史郎が保健室にいたんだ。もちろん最初はくだらないって聞く耳持たなかったんだけど、珠代先生の方が俺の話を聞いてくれてさ。メンバーとか場所とか、俺がいろいろ勝手に話進めてたら、学校の教室を借りれないかなって話になって…」

「もしかして、珠代先生が?」
「そっ。自分が引率者として責任を受け持っていいならって、ダメ元で一緒に理事長に頼んでくれたんだよ。で、許可がもらえたわけ」

「そうなると…」
素直に椅子を引きながら、教室を出ていく愈史郎を見やる。肩も頭もガックリ落としたその姿は、持って一分だろう。心配な眼差しを向ける珠代先生に、同じクラスの女子生徒がいつものことだとフォローを送っていた。

「愈史郎が張り切るわけだな」
「だろ!早かったぜ、愈史郎の段取り。俺企画者だけどさ、ほとんど何もしてないよ!」

胸を張って笑顔で言いきる竹内に、フランケンシュタインのおどろおどろしい様相は一切感じられない。

ふいに、僕を演じている兄と目が合った。普段自分と接している姿勢を崩さず、錆兎は兄と談笑していた。バレることなく、あちらも上手くやっているらしい。

教室の扉が再び開くと、待ち望んでいた人物がやっと現れた。かぼちゃと同じ色の毛先が揺れ、導かれるように足が動きだす。

僕の仮面をつけた有一郎が、目の前に立ち塞がった。
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