「兄さんがノッてくれるなんて意外だったよ」
「たまにはこういうのもな」
藍色に染まっていた空が、ゆっくりと黒に塗りつぶされていく。もうすでに星がちらつき始め、気温も下がり始めた。襧豆子の繕ってくれたマントを前で閉める。

「楽しみだね。ハロウィンパーティー」
夜の学校に明かりが点いているのは、少しばかりの特別感がある。気持ちを高揚とさせるのは、普段は会うことのない夜に、彼女と会えることも大きく関係していた。

足元への配慮と、闇に怯えることないようにと、玄関や廊下には電灯が点いてあった。生徒のいない暗い教室の前をいくつか通りすぎ、自分の教室を目指す。すでに何人かのクラスメイトが来ているらしく、教室の隙間からは談笑する声があふれてきていた。

「いい？教室に入ったら、もう始めるよ」

「わかってる」
「じゃ、ゲーム開始」
教室の扉を開けると、馴染みある面々はほぼ揃っているように見えた。襧豆子の姿がまだ見えないことだけをサッと確認すると、足を踏み入れる。ハロウィン仕様に飾り付けされた教室は、オレンジや黒が目立つ。机を寄せ集めて作られた大きなテーブルには、皆で持ち寄った菓子やジュースが大量に用意されていた。

「お、来たか。二人とも」
「二人はドラキュラなんだ！似合ってるじゃん」錆兎と竹内が僕たちに気づき、声がかかる。

犬耳のカチューシャを付けた錆兎は、きっと狼男に仮装しているんだろう。頭にボルトが刺さっている竹内は、フランケンシュタインに違いない。遠目から見ても、そのボルトもやわらかい生地でできたものだとわかる。襧豆子の用意してくれたマントのおかげで、僕と有一郎も吸血鬼の仮装をしていると、かろうじて伝わるレベルだ。

友人と夜に集って騒ぐことができる。仮装のクオリティは最小限にして、皆そちらに焦点を当てているようだった。

「お待たせ〜。みんなもう来てたんだ」
有一郎が軽く手を振りながら近づく。その一歩後ろで、顔の筋肉にわずかな力を込めた。自然体に見えるような咳払いをして、喉の調整をする。

「すげー本格的なパーティーだな…これ、全員で食べきれんのか？」テーブルの菓子を見つめながらつぶやくと、竹内が笑顔で言い放った。

「有一郎まで愈史郎と同じ心配してる。余ったらみんなで分けて持ち帰ったらいいじゃん」有一郎の仮面を被った僕は、心の中でしたり顔を浮かべる。

──仮装に変装を重ねよう。

僕と兄でお互いを演じる。子どもの頃に二人でした遊びを、もう一度やってみたくなったのだ。