魔女の秘密

*無一郎side*

───委員会が終わり、足早に昇降口へ向かっていたときだ。後ろから兄の名で呼ばれて、振り向かずに思いきり顔をしかめた。

僕と有一郎、二人一緒にいるときはまだいい。名を呼んで返事を返した方が正解だ。しかし自分一人になると、こういった場面はよくある。そしてこれは、経験からするに告白と思っていいだろう。面識のない女子生徒は、僕を有一郎だと信じこみ、話を進めだした。

自分たちの区別もつかない人間が、どの口で愛の告白なんてできるのだろう。

今から気持ちを打ち明ける相手に向かって、僕と有一郎、どちらか確認を取ってくる奴はまずいない。訂正する気力や優しさを、僕たちは持ち合わせてなどいない。ハズレにせよ返事を返すと、皆一様に安堵した表情をするのだ。

そんなとき、無性に気持ちが悪くなる。
僕だろうが有一郎だろうが、結局はどちらでもいいんじゃないか。兄になりきっているときは、いつもその言葉が喉までせり上っていた。

有一郎が述べそうな言葉を適当に並べて、さっさとくだらない話を終わらせようとした。

『もしかして…やっぱり彼女がいるの?あの竈門襧豆子って子と、付き合ってるの?』

忌々しい言葉を無理やり絞り出すような、嫌悪と悲しみが混ざった表情で、女子生徒はそう言った。有一郎と襧豆子が付き合っているかだなんて。よりにもよって、ずっと彼女への想いを抱えたままの自分に向かってだ。

そんなわけないだろうと睨みつけた自分は、一番兄の演技ができていたかもしれない。僕たちを区別できないくせに、簡単に好きだなんて言うものじゃない。そこに襧豆子の名前など、出してほしくはない。

涙を堪え、軽く頭を下げた女子生徒は、静かな廊下の奥へ走り去っていく。やっと解放されたと足を動かすと、笑ったかぼちゃと目が合った。

階段の踊り場の壁に、ハロウィンをイメージしたガーランドが飾られてあった。ハッピーハロウィンの文字を紐にくぐらせ、折り紙で作られたかぼちゃやコウモリが貼られてある。

──思いついたのは、たんなる気まぐれだ。
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