魔女の秘密

寝間着に使っている半袖のシャツは、衣替えして長袖になっていた。天井に向かって手を伸ばすと、手首まで着たシャツも一緒に伸びる。

気持ちを切り替えるように拳を作った後、ベッドから起き上がった。部屋の片隅に置いてある紙袋を掴むと、中から明日の衣装を取り出す。

丁寧な採寸のもとで、自分の肩幅にも背丈にもぴったりな黒いマント。吸血鬼に仮装する自分のマントは、彼女が繕ってくれたものだった。
明日しか着ないというのに、皺になりにくい生地をわざわざ厳選し、しっかりと吸血鬼らしく立ち襟も付けてくれた。家庭科の裁縫の授業では、襧豆子の右に出る者はいない。

彼女の遊び心だろうか。立ち襟の裏地に、ひっそりと隠れるようにかぼちゃのイラストが刺繍されてある。そっと指の腹で刺繍を撫でていると、舌打ちしてた自分をなぜだかとても恥じてくる。メジャーを持った襧豆子との距離を思い起こし、同時に彼女の呼吸音や熱まで彷彿とさせた。

突然、部屋の扉をノックする音が響く。
「兄さん、明日のハロウィンパーティーのことなんだけど」

「…返事してから開けろよな」
「ごめんごめん」
こちらの返事も聞かずに、無一郎が部屋へと入ってきた。簡単に謝りながらベッドに腰かけると、俺の持つマントをまじまじと見つめながら言った。

「………それ、襧豆子が縫ってくれたやつ?」
「そうだよ。お前ももらってたろ。同じ吸血鬼のマント」

「ふーん…僕にだけなのかと思ってた」
「そんなわけねーだろ」
かぼちゃの刺繍に軽くふれた無一郎の指先。どうやら無一郎のマントにも、同じ刺繍が施されているのだと悟る。

「どうした?夕方の続きか?」
「違うよ。明日、クラスでやるハロウィンパーティーなんだけど…久しぶりに、"あれ"やらない?」

どういう風の吹き回しか。あっさりと俺が了承すると、無一郎は意外そうに目を丸くさせた。
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