魔女の秘密

「…それで、なんて答えたんだよ」
「もちろん付き合ってないって、はっきり言っておいたよ。絶対にそれはない、ただの友達だって強く説明しといたから」

無一郎の語尾がだんだんと強くなる。それに合わせるように弟が早足になって、その背中について行く。景色が薄闇の膜に覆われて、自宅のマンションが近づいてきていた。

「………そこまで言わなくてもいいだろうが」
「本当のことじゃん」

二人の早足が駆け足に変わる。勢いづく足音で声が聞こえにくいかと、声量が勝手に上がっていった。
「絶対になんてわからないだろ!」
「絶対だよ!」

「なんでお前にわかるんだよ!」
「わかるよ!」
家に着くまでにこれだけは言っておく。そう告げるような瞳を俺に向けて、無一郎は急ブレーキで止まった。自分も同じように立ち止まる。


「襧豆子は僕のだから」
そして言い逃げるように、猛ダッシュで走り出す。自宅マンションの入口まで目掛け、猛ダッシュで追いかけた。

「よく言うぜ!片想いのくせに!!」
「それは兄さんだって同じだろ!!」

マンションの自動扉がゆっくりと開いていく。
完全に開くのを待たず、最低限に開いた隙間へ体を滑り込ませた。

「付き合ってるって勘違いされるなら、俺のが一歩リードだ!」
「僕だって前に同じこと聞かれた!」

「はっ!?嘘つけ!」
「嘘じゃない!」

ドン!と手のひらを叩きつけるようにして、同時にエレベーターのボタンを押す。ぽんっと軽やかな音が鳴ると、一階で止まっていたらしいエレベーターの扉はすぐに開く。

数秒の睨み合いが終わると、俺たちは黙って中に乗り込んだ。この場にいない彼女には到底見せられないような、膨れっ面の双子が鏡に写る。何事もなかったかのように玄関をくぐったとき、外はすっかり夜になっていた。
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