魔女の秘密

「参ったよ。いつもみたいに適当な理由で断ったら、そんなんじゃ納得できないって泣かれたんだから」

「あぁ…だからこんな時間になったのか」
夜に変わりつつある空を見上げ、他人事のようにつぶやく。初めて見る生き物に驚いた表情で、すれ違った親子の子どもが俺たちを指差した。

無一郎に間違われようが、弟が自分の代わりに告白を受けようが、どうでもよかった。そんなことで腹を立てるほどもう子どもじゃないし、双子として生まれた宿命だと、歳を重ねるにつれ徐々に受け入れていった。

そう思っていたはずなのに、体内に立ちこもる苛立ちが再び煮えだす。この苛立ちの根源がずっと胸の奥底にあったのに、無視し続けた結果がこれだ。

今度は一人でなく無一郎がいたけど、大きく舌打ちをした。

「うわ、何?機嫌悪いね」
「………今日、お前宛てに告白があったぞ。駅で」

「え、兄さんの方も?」
「あぁ。この間、電車にいた変質者をお前が捕まえたときあっただろ。それを見た他校の女子からの告白」

「ちゃんと断ったよね!?」
「断ったって」
口に出すのも正直気が引けたが、しぶしぶ本人へ報告をしておいた。無一郎が焦る気持ちを隠さないのには、理由がある。少し沈黙した後、弟は口を尖らせた。

「………今日、兄さんに告白してきた女子がさ」
「?なんだよ」

「…自分と付き合えないのは、やっぱり襧豆子と付き合ってるからかって訊いてきたんだよ」
「!?…っ…はぁ!?」

白くて丸いおでこを見せた、彼女の姿がよぎる。意外な人物の名を出されたと感じたが、すぐに意外でもないかと思い直した。
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