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「………あの、」

「…あっ!すみません!ぼく!キメツ学園高等部二年の、倉田和希(くらたかずき)と言います!竈門襧豆子さんのお宅でしょうかっ!?」叫ぶように早口で男の子は言った。

二年生…。倉田さん…。
記憶を遡ってみるが、正直覚えがなかった。キメツ学園は生徒数が多い。一年の一学期の間では、知ってる生徒よりも知らない生徒の方がまだ多い。けれど、この人は私を知っている。学園内で会ったことも、話したこともないはずだ。

「…はい、竈門襧豆子は私です…えっと、倉田さん?ごめんなさい、まだ先輩の名前とか覚えきれてなくて…」

「いえ、いいんです!僕と竈門さんは面識ないし…お家がパン屋だってのは名前で知ってたので…」

「…あぁ、そうですよね」
この辺りでパン屋はうちだけだ。竈門ベーカリーと堂々と苗字が看板についているし、私や兄弟たちを知らなくてもお店は知ってる、というのはよくある話だった。

「…竈門さんのことを知ってるのは、新しい三大美女の子だってみんなが騒いでたからで…僕が一方的に知ってるだけなので…驚かせてすみません」

「!いえ、全然そんなこと…あの、どうして今日はうちに?」三大美女なんて言われてどう反応していいかわからなかった。こちらから本題を切りだすと、倉田さんが数秒ほど押し黙る。

そして意を決したように、また叫ぶように早口で言った。

「今日の四時!学園の校舎裏に来てくださいお願いします!!!」

地面につきそうなほど頭を大きく下げた。言われた内容がすぐに頭に入ってこなくて、蝉の鳴き声が二人の間に流れる。

「え…」

「………っ、来てくれるまで待ってます!」
顔を上げた倉田さんと一瞬だけ目が合う。早くこの場から逃げたいと怯えの色が見えた。質問も何も言えないまま、走り去っていく倉田さんの背中をただ眺めるしかできなくて、私の疑問や迷いに答えてくれる人は誰もいなくて、いつもはうるさく感じる蝉の鳴き声が今だけは遠くに聞こえた。
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