境界線[上]

*襧豆子side*

クーラーの効いた自室で、夏休みの宿題に向き合っていた。午後の日差しが窓から差し込んでくる。涼しい部屋に日が当たる一角だけ、外の熱が宿っていた。青い空と真っ白い入道雲が、まだ始まって間もない夏を感じさせた。”夏休みのとも”そう書かれた数学のドリルを閉じる。

両腕を上げて大きく伸びをすると、この後の予定をぼんやり思い描いた。

今日の夏祭りに行けなくなったと、先ほど真菰ちゃんから連絡が入った。風邪を引いて熱を出したらしい。汗の絵文字がたくさんつけられたメッセージ画面を背景に、手を合わせ謝る友人の姿が見えた。祭りの後は真菰ちゃんのお家にお泊まりをする予定でもあったのだ。ベッドの上で寝込んでいる友人の姿が、脳裏によぎる。

…何かお祭りで買って、お見舞いに持っていこうかな。そう思い立ち、おもむろにスマホを手にしていた。

りんご飴やわたあめなら保存がきくし、ヨーヨーやお面は夏祭りの雰囲気だけでも届けられる。玄関先でご両親に渡して、すぐ帰ってこよう。

ぼんやり考えながら、手は自然とスマホの連絡帳を開いていた。スワイプしていくと、クラスメイトの名前が順に並べられている。お見舞いを買いに行くのが目的だし、一人で行ってすぐ真菰ちゃんの家へ向かってもいいけれど、それはそれで少し寂しい気もしたのだ。どうせならば誰かと一緒に行きたい。

クラスメイトの名前を目通ししていくが、今日いきなり夏祭りに誘っても大丈夫そうな子は………いない。諦めかけていたそのとき"無一郎くん"と"有一郎くん"幼なじみ二人の名前が出てきた。見えない力でまるで誘導されてるかのように、指先は二人の名前を指していた。
7/19ページ
スキ